トリプルメディアとは、
- オウンドメディア(Owned Media):自社で管理ができる媒体
- アーンドメディア(Earned Media):他者が管理をしている媒体
- ペイドメディア(Paid Media):お金を払うことで情報を管理できる媒体
のことで、デジタルマーケティングの分野で使用されるマーケティング用語です。
近年ではSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の台頭で、アーンドメディアの一種として「シェアードメディア(Shared Media、共有メディア)」を加えた考え方も受け入れられています。
これらのメディアを「短期的/長期的」「確実/不確実」の2つの軸で分類すると、下図のようになります。
このページでは、トリプルメディアのオウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアおよびシェアードメディアについて、わかりやすく解説します。
トリプルメディアとは?
トリプルメディアとは、デジタルマーケティングにおけるオンラインメディアの分類方法で「オウンドメディア(Owned Media)」「アーンドメディア(Earned Media)」「ペイドメディア(Paid Media)」のことです。
本来はデジタルマーケティング(オンラインマーケティング)で使われる用語ですが、拡大解釈して従来の4マス媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)やアナログな広告手法(屋外看板、ポスター、チラシなど)を含めて説明されることもあります。
この「Owned Media」「Earned Media」「Paid Media」という言葉は、2009年にアメリカのオンラインニュースメディア「CNET(シーネット)」に掲載されたティム・レーベレヒト(Tim Leberecht)氏による下記の記事「Multimedia 2.0: From paid media to earned media to owned media and back」で広まりました。
参考
Multimedia 2.0: From paid media to earned media to owned media and backCNET
ちなみにこちらの記事では「トリプルメディア(Triple Media)」という言葉は一度も出てきません。トリプルメディアという呼び方は日本で広まった特有の表現になります。
このトリプルメディアは、
- 短期的/長期的の軸:コンテンツの寿命の長さ
- 確実/不確実の軸:コンテンツのコントロール(制御)のしやすさ
という2つの軸を使うと理解しやすくなります。
「トリプルメディア」は日本独自の呼び方ですが、英語圏では単純に「Digital Marketing Media」「Online Marketing Media Mix」などと呼ばれています。また「POEM(ポエム、ポウム、Paid-Owned-Earnd Media)」や「PESO(ペソ、Paid-Earned-Shared-Owned)モデル」などの呼び方もあるようですが、一般には浸透していません。
オウンドメディア
オウンドメディアとは、
- Owned(オウンド、所有された)
という意味で、自社で管理をしているデジタルメディアのことです。
具体的には、
- 自社ホームページ
- 自社ブログ
- 自社ECサイト(オンラインショップ)
- SNSの自社アカウント
- メールマガジン
などの媒体を指します。
オウンドメディアは、
- コンテンツの寿命が中長期に渡る
- コンテンツの内容をコントロールしやすい
という特徴があり、先ほどの図では右上に位置しています。
オウンドメディアは、配信するコンテンツや情報を自社で全てコントロールできる反面、中長期的に運用するためには毎年多くの費用がかかります。
ホームページやSNS公式アカウントの立ち上げにかかる費用だけでなく、日々のコンテンツの作成や更新作業、オンラインコンテンツへの問い合わせ対応など、毎月の人件費や維持メンテナンス費用が常に必要です。
もちろん運用を外注することもできますが、内製する場合と同等の費用がかかることや、コンテンツを素早く柔軟に変更できるというメリットが犠牲になる事があります。また外注運用では、オウンドメディアの一番の競争力である中長期的な自社メディア運用ノウハウも、蓄積されないというデメリットがあります。
しかし何よりも顧客との接点を自社で管理でき、ソーシャルメディアなどで顧客と双方向のコミュニケーションを取る事ができる媒体でもあるので、コストに見合う成果を得る事ができます。
ペイドメディア
ペイドメディアとは、
- Paid(ペイド、支払われた)
という意味で、広告など有償で情報を管理できるデジタルメディアのことです。
具体的には、
- インターネット広告
- プロモーション記事
- アフィリエイトプログラム
- ユーチューバーなどのスポンサー動画
- インフルエンサーによるSNS投稿
などを指します。
ペイドメディアは、
- コンテンツの寿命は短期的
- コンテンツの内容をコントロールしやすい
という特徴があり、先ほどの図では右下に位置しています。
媒体の所有者に対して対価を支払う事で、広告を掲載してもらうのがペイドメディアです。
広告の内容は細かくコントロールできる反面、
- 閲覧回数
- 再生回数
- クリック数
- 問い合わせ数
- 購入額
などに対する広告費(出稿費用や運用手数料)が常に発生し続けるため、長く運用すればするほど大きな費用がかかります。
一方で広告の出稿から顧客の目に触れるまでの期間が非常に短く、短期的な成果を求められるプロモーションの展開に適しています。
また、近年ではペイドメディアの多様化がすすみ、SNSで多くのフォロワーを持つ影響力のある人物(インフルエンサー)とタイアップして有償の投稿を依頼したり、ニュースメディアで特集記事を企画したり、ユーチューバーと動画の内容を企画したりと、手の込んだ企画を伴う広告も増加しています。
アーンドメディア
アーンドメディアとは、
- Earned(アーンド、獲得した)
という意味で、他者が管理をしているデジタルメディアのことです。
具体的には、
- ニュースサイト
- 個人ブログ
- 口コミサイト
などの媒体を指します。
アーンドメディアは、
- コンテンツの寿命が中長期に渡る
- コンテンツの内容をコントロールしにくい
という特徴があり、先ほどの図では左上に位置しています。
「Earned(アーンド)」とは英語で「獲得した」という意味ですが、
- 信頼や評判を獲得することのできるメディア
という意味で使われています。
そして先ほどのペイドメディアとの違いですが、アーンドメディアは広告ではないので対価を支払う必要がないということです。
例えば、ニュースサイトで自社の製品やサービスが紹介されたり、個人のブロガーが書いた製品やサービスのレビュー記事などが代表的なものになります。これらの記事やコンテンツは、自発的に書かれたものであり「信頼」や「評判」の裏付けになります。
一方で、自発的に作られるコンテンツであるため、内容をコントロールする事ができません。良い評判も悪い評判もどちらも書かれますし、真実だけでなくウソや誤解も含む内容が広まる危険性もあります。
影響の及ぶ期間は、ブログやニュースの記事など長期にわたるものから、SNSに投稿された短期間で消費されるようなコンテンツもあります。
シェアードメディア
シェアードメディアとは、
- Shared(シェアード、共有された)
という意味で、コンテンツを共有することができるデジタルメディアのことです。
共有コンテンツは、先ほどのアーンドメディアの機能の一つとして提供される事が多く、同じものとして考えるケースも多く見られます。
具体的には、
- ソーシャルネットワークでの「いいね!」や共有されたコンテンツ
などを指します。
シェアードメディアは、
- コンテンツの寿命が短期的
- コンテンツの内容をコントロールしにくい
という特徴があり、先ほどの図では左下に位置しています。
最もイメージしやすいのは、SNSでの「バズり(急速に話題性が高まり共有される)」や「炎上(悪い意味で話題性が高まり共有される)」です。
これらの急速なコンテンツの伝搬は、非常に短期間で広まる上にほとんどコントロールする事ができません。意図しないバズりや炎上が起こることは、企業としてはリスクととらえる必要があります。
一方で、じわじわと情報が広がるようなコンテンツや、公式アカウントにファンが定着する事でコンテンツが安定的に共有される状況を作れば、とても有益なメディアになります。
トリプルメディアの事例:Facebook
トリプルメディアという言葉を聞くと、3種類の異なる媒体をイメージする人もいるかもしれません。
しかし1つの媒体で「オウンドメディア」「ペイドメディア」「アーンドメディア」「シェアードメディア」の全ての属性を持つ媒体も存在しています。
代表的な例は、Facebookなどのソーシャル・メディアです。
例えば、Facebook上で「Facebookページ」と呼ばれる専用のページを作成すれば、掲載する全てのコンテンツの内容をコントロールできる上に、コンテンツを蓄積させながら長期的に運用する事ができます。つまり、Fecebookというプラットフォーム上に「オウンドメディア」を作成できるという事になります。
また「Facebook広告」の機能を使えば「ペイドメディア」として運用できますし、Facebookの一般利用者の自発的な書き込みは「アーンドメディア」としての側面を持っています。さらに「いいね!」や「シェアする」といった機能でコンテンツを共有する事ができるので、「シェアードメディア」として考えることもできます。
このように1つの媒体でも、トリプルメディアの全てに当てはまるものもあるので、「SNS = アーンドメディア」という間違ったイメージには気をつける必要があります。
トリプルメディアを戦略的にとらえる
トリプルメディアは、それぞれがバラバラに存在しているわけではありません。
「オウンドメディア」「ペイドメディア」「アーンドメディア」「シェアードメディア」それぞれの特徴を理解した上で、必要に応じて戦略的に連携させることが重要です。
トリプルメディアの情報の流れ
トリプルメディアで最も信頼できる情報は、情報の発信元となる「オウンドメディア」です。もし、この「オウンドメディア」に十分な情報がなければ、顧客はアーンドメディアなどの一部の不確実なコンテンツも情報源にしてしまいます。そのため「オウンドメディア」による正しい情報の発信は重要になります。
「ペイドメディア」は広告や広告に準ずるプロモーションのコンテンツであるため、内容の根拠は「オウンドメディア」になりますし、「オウンドメディア」との整合性が情報の信頼性へとつながります。
また他者が自発的にコンテンツを掲載する「アーンドメディア」や「シェアードメディア」は、情報が流れ着く最終地点であるため、情報が正しく伝わらないことも多くあります。
例えば、ニュースサイトなどでは「オウンドメディア」の公式な情報を引用する場合が多く、情報の信頼性もある程度担保されます。しかし個人ブログなどになると、他のアーンドメディアやシェアードメディアの情報も根拠とするため正確な情報が伝わらないこともあります。
このようなことを防ぐためには、顧客が利用するSNSなどの媒体に公式アカウントなどでオウンドメディアの情報を発信し、正しい情報が共有されやすい環境を作ることが重要です。
トリプルメディアの顧客の流れ
発信された情報は、顧客に製品やサービスを認知させ、学習を促し、行動に移させる力もあります。
顧客が最も目にしやすいのは「ペイドメディア」です。バナー広告などのディスプレイ広告は、インターネットを利用していればホームページからアプリの中までいたるところに表示されます。聞いたことのない製品やサービスであっても、「ペイドメディア」によって顧客に「認知」させることができます。
また「シェアードメディア」などの「アーンドメディア」も、顧客が製品やサービスについて初めて認知する媒体になります。さらにニュース記事やブログ記事などで詳しく説明されていれば、顧客は製品やサービスについて「学習」します。
さらに興味を持った顧客は、ホームページやネットショップなどの「オウンドメディア」から「問い合わせ」や「購入」など直接的な「行動」を起こします。
このようにして、顧客はトリプルメディアに触れながら行動を変化させるので、それぞれの媒体に合わせたコンテンツの役割を企画し、トリプルメディア全体で大きな流れを作ることが重要です。
関連書籍
オウンドメディアのやさしい教科書。 ブランド力・業績を向上させるための戦略・制作・改善メソッド