LTV(Lifetime Value、ライフタイムバリュー)とは、
- 特定の顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益の合計金額の現在価値
のことで、顧客獲得コストの上限を算出するために計算を行います。
「顧客生涯価値」とも呼ばれ、英語では「CLV(Customer Lifetime Value、カスタマー・ライフタイム・バリュー)」や「LCV(Lifetime Customer Value、ライフタイム・カスタマー・バリュー)」などと表現されます。
LTVの計算方法としては、
- LTV = 利益 ÷ 離反率
- LTV =(利益 × 継続率)÷(1 + 割引率 − 継続率)
- LTV = 初回販売の利益 + 2回目の利益の現在価値 +…
など、様々な計算式が存在しています。
これらの計算式で重要なのは、将来得られる利益を現在の利益に割り引いた「現在価値」という考え方です。なぜなら顧客が商品をリピート購入する場合、合計金額が同じでも毎月購入するのか3年ごとに購入するかではライフタイムバリューの値に大きな差が生まれてしまうからです。
そのため「現在価値」を考慮しないLTVの計算方法は、重要な経営判断をする場面では使いにくいことに注意する必要があります。
またLTVの観点からターゲット市場を、
- 永久獲得市場:一度顧客になったら永久に顧客であり続ける市場
- 単純維持市場:一定期間を過ぎると顧客が永久に離れる可能性のある市場
- 顧客維持市場:顧客が頻繁にスイッチング(利用の切り替え)を行う市場
の3つの市場に分類することができます。
ここではLTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)について、計算方法などをわかりやすく解説します。
LTV(ライフタイムバリュー)とは?
LTVとは、特定の顧客が生涯にわたってその企業にもたらすと予測される利益合計の現在価値のことです。
そしてLTVを知ることによって、
- 顧客獲得コストの上限を算出すること
が目的です。
例えば、顧客が企業にもたらす生涯の利益合計(つまりLTV)が100万円とわかっていたら、その会社は顧客を獲得するために100万円までなら使っても損をしません。
逆に言えば、その顧客を獲得するために100万円以上の営業費用や広告費をかけてしまうと、LTVを上回ってしまい損をしてしまいます。
このように、ターゲット顧客ごとのLTV(ライフタイムバリュー)を知っていれば、プロモーション予算を適切に設定することができ、知らないうちに赤字を垂れ流すことを防ぐことができます。
LTVの計算方法
LTV(ライフタイムバリュー)の計算式は色々なものが存在していますが、ここでは代表的な3つの計算式をご紹介したいと思います。
- シンプルなLTV計算式
- 割引率を考慮したLTV計算式
- 客単価が上がる場合のLTV計算式
ここからはそれぞれを個別に説明します。
シンプルなLTV計算式
一番シンプルで計算しやすいLTVは、
- LTV = 利益 ÷ 離反率
という計算式になります。
なお、この計算式では「現在価値」を計算しないので、精度が最も低い簡易的な計算方法と言えます。
このLTVの計算に必要なのは、
- 利益:顧客から得られる平均的な利益
- 離反率:再購入する顧客が脱落していく割合
の二つの数値だけです。
例えば、あるラーメン店で、
- 平均客単価:1000円
- 平均の粗利(原価と人件費を差し引いた利益):400円
- 離反率:70%(来店客の7割は戻ってこない)
という数値がわかっていた場合、
- LTV = 400 ÷ 0.7 = 571.4286…
ということで、ライフタイムバリューは約571円となります。
つまりこのラーメン店は顧客を呼び込むために、顧客一人あたり571円までなら広告費をかけても赤字にならないということです。
もしそのラーメン店が地元のフリーペーパーに月額50,000円の広告掲載費用を払っているなら、
- 50000 ÷ 571 = 87.5657…
ということで、新規顧客88人の獲得が意思決定の基準になります。
このようにLTV(ライフタイムバリュー)を使って広告効率を計算すれば、
- フリーペーパー経由の来客が月88人以上 → 広告を継続
- フリーペーパー経由の来客が月87人以下 → 広告掲載を停止
という経営判断ができるようになります。
このLTVの計算式は、計算精度があまり高くはありませんが、ちょっとした経営判断には十分使うことができます。
もしなぜ2つの数字だけでLTVが計算できるのか疑問に思った方は、下記の記事も参考にしてみてください。
LTVは「次回来店時に使える煮卵トッピング無料券」などの費用対効果も「大まかに」計算できます。
例えば先ほどのラーメン店で、
- トッピング無料券の原価:20円
- トッピング無料券の利用率:35%
だった場合、30%の来店客は何もしなくても戻ってくるので、トッピング無料券のリピート効果は5%(離反率は70%→65%に変化)だと考えます。その一方で、原価が20円増えるので粗利は400円から380円に減ります。
これでもう一度LTVを計算してみると、
- LTV = 380 ÷ 0.65 = 584.6154…
ということで、トッピング無料券を配る前よりもLTVが増加したということがわかりました。もちろん厳密な計算ではないので過信できませんが、「トッピング無料券は効果がある可能性は高い」という判断はできそうです。
割引率を考慮したLTV計算式
次はもう少し計算精度の高い、「割引率」を使って「現在価値」を計算するLTVの計算式になります。
LTVの計算式は、
- LTV =(利益 × 継続率)÷(1 + 割引率 − 継続率)
ということで、こちらは「割引率」を使って「現在価値」に割り引いた本来の意味でのライフタイムバリューになります。
このLTVの計算に必要なのは、
- 利益:顧客から得られる平均的な利益
- 継続率:再購入する顧客の割合(先ほどの離反率の逆数)
- 割引率:将来得られるお金を現時点の価値に差し引くための割合
の3つの数値です。
「割引率」と「現在価値」についての詳しい説明は、こちらの記事をご覧ください。
ちなみに、ビジネススクールのマーケティング教材の定番である「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 」では、ライフタイムバリューの「割引率」について、
その際には適切な割引率を適用する(例えば、資本コストとリスク態度というコストに応じて10〜20%)。
コトラー他 著「コトラー&ケラーのマーケテイングマネジメント第12版」p186より引用
と書かれています。つまり経営者やオーナーがその事業から大きなリターンを期待している場合などは、高めの割引率で計算するようなイメージです。
例えばある美容院が、
- 顧客一人当たりの年間売上高:50,000円
- 顧客一人当たりの年間営業利益:10,000円
- 顧客の継続率:50%(顧客の半数は翌年も来客する)
- 美容院オーナーの期待収益率(=割引率):10%
という数値がある場合にLTVの計算は、
- LTV =(10000 × 0.5)÷(1 + 0.1 − 0.5)= 8333.3333….
となります。
つまりこの美容院では、顧客1人を獲得するためのプロモーション費用として、8,333円がひとつの目安になります。
客単価が上がる場合のLTV計算式
ここまででご紹介した2つのLTV計算式では、客単価は一定であることを前提に計算していました。しかし客単価は、常に一定であるとは限りません。
例えばスポーツ用品などでは、初心者は比較的安価な商品を購入しますが、スポーツが上達するにつれて高い機能で品質の高い商品に買い換えていきます。また美容関係の商品も試してみて効果があれば、再購入時に同じブランドの他の商品も合わせ買いするようになります。
このような施策をマーケティング用語では、
- アップセル:顧客に上位の商品をすすめること
- クロスセル:顧客に関連する商品をすすめること
と呼びます。
このように顧客との付き合いが継続することでアップセルやクロスセルが発生する場合には、
- LTV = 初回販売の利益 + 2回目の利益の現在価値 +…
というように、毎年発生する利益を個別に計算する必要があります。
この場合は個別に「現在価値」を計算して合算するだけですが、初回販売は赤字覚悟で商品やサービスを提供するような場合(無料体験など)は、「NPV(正味現在価値)」の考え方が参考になります。
例えば、ある登山用品専門店が登山初心者の顧客を獲得した場合、
- 1年目の顧客一人あたりの利益:30,000円(登山初心者)
- 2年目の顧客一人あたりの利益:50,000円(登山中級者)
- 3年目の顧客一人あたりの利益:70,000円(登山上級者)
- 店長の期待収益率(=割引率):10%
というように、確実に3年間の利益が見込めたとします。顧客の登山スキルの向上に合わせて、店長がより高機能の商品のアップセルや、登山ツアーの斡旋などのクロスセルを行うイメージです。
この場合には、
- 1年目の利益の現在価値 = 30000 ÷(1 + 0.1)^1 = 27272.7273…
- 2年目の利益の現在価値 = 50000 ÷(1 + 0.1)^2 = 41322.3140…
- 3年目の利益の現在価値 = 70000 ÷(1 + 0.1)^3 = 52592.0361…
となって、これらを合計すると、
- LTV = 121187.0774…
ということで、LTVが12万円あまりということがわかります。
つまりこの登山用品専門店の店長は、お店の熱心なファンを生み出すために、イベント開催やインターネットでの情報発信などで新規顧客あたり12万円まで投資できると考えることができます。
LTVについてネットで検索してみると、
- LTV = 客単価 × 購買頻度 × 利用期間 − 新規顧客獲得コスト
という「現在価値」を考慮しない説明しかなくて驚きました。
例えば先ほどの登山用品専門店の例のような
- 1年目の利益:3万円、2年目の利益:5万円、3年目の利益:7万円
というように徐々に利益が増えるLTVのパターンと、
- 1年目の利益:7万円、2年目の利益:5万円、3年目の利益:3万円
という徐々に利益が減るLTVのパターンは、現在価値を考えなければ両方ともLTVが同じ15万円です。
しかし現在価値を考慮してLTVを計算すると、
- 徐々に増えるパターンの現在価値 = 121187.0774…
- 徐々に減るパターンの現在価値 = 127498.1217…
となって、徐々に減るパターンの方がLTVが6,000円も高くなります。
LTVの長さが違う3つの市場
LTVの長さはターゲットとする市場によっても違います。
ライフタイムバリューの視点から、
- 永久獲得市場:一度顧客になったら永久に顧客であり続ける市場
- 単純維持市場:一定期間を過ぎると顧客が永久に離れる可能性のある市場
- 顧客維持市場:顧客が頻繁にスイッチング(利用の切り替え)を行う市場
という3つの市場に分類することができます。(「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 」p195を参照)
永久獲得市場
LTVの永久獲得市場とは、一度顧客にしてしまえば滅多なことがない限り顧客であり続けてもらえる市場のことです。この永久獲得市場にある商品やサービスを取り扱っている場合は、LTVが文字通り「生涯顧客価値」になります。
具体例としては、
- 老人ホーム
- 信託銀行
- 医療機関
などが該当します。
永久獲得市場の商品やサービスは、
- 契約期間が長期にわたるor生涯にわたる
- 利用をやめるキッカケになる出来事が滅多に起こらない
- 売り手と買い手の関係性が密接になる
などが考えられます。
例えば老人ホームなどは、終の住処(ついのすみか)として利用者が生涯を終えるまで利用し続けることのできるサービスがあります。途中で介護事業者を変更することもできますが、生活環境が大きく変化することが利用者の負担になってしまうため、多くの場合に一生涯の顧客になります。
また個人や法人の財産を運用管理する信託業務を行う銀行なども、利用者は滅多なことがない限り契約を解除することはありません。財産の管理は一個人のみならず、財産を相続することで何代にもわたって運用管理されることもあります。
そのため「割引率を考慮したLTV計算式」などの、一定の利益が永遠に生まれると想定するような計算式で、ライフタイムバリューを求めることができます。
単純維持市場
LTVの単純維持市場とは、一定の期間を過ぎると顧客が二度と戻ってこなくなる市場のことです。この単純維持市場にある商品やサービスでは、LTVを平均的な利用期間で計算することがほとんどです。
具体例としては、
- 通信会社
- 雑誌の購読
- 公共交通機関
- 水道光熱費
などが該当します。
単純維持市場の商品やサービスは、
- 一定の利用期間が過ぎた後に解約できる
- ライフスタイルの変化で利用されなくなる
などの特徴があります。
例えば携帯電話回線や雑誌の年間購読契約などは、初回の契約では必ず一定期間の利用を見込むことができます。しかしその後は、何らかの不満があったり必要性がなくなったいるすると解約され、多くの場合で顧客が長期間戻ってこなかったり、最悪のケースでは二度と戻ってこなかったりします。
また公共交通機関や水道光熱を提供するサービスなど社会的なインフラに関わる事業も、利用者の生活スタイルの変化で顧客が二度と戻ってこないことが多くあります。例えば利用者が引越してしまえば、またその土地に戻ってくるまで、公共交通機関や社会インフラを利用しなくなります。
顧客維持市場
LTVの顧客維持市場とは、顧客が気軽に製品やサービスの乗り換えを行ってしまう市場のことです。この顧客維持市場の商品やサービス自体は、短い期間に対するLTVの計算か、現在価値を考慮しない計算方法になることが多いようです。ただし、それらを取り扱う店舗や販売代理店は、顧客との間に関係性を築くことで中長期にわたる現在価値を考慮したLTVの計算が可能になります。
具体例としては、
- 日用品
- 飲食店
- 航空会社
などが挙げられます。
顧客維持市場の商品やサービスは、
- 機能に差が出にくい
- 切り替えるリスクがとても低い
などの特徴があります。
例えば日用品では、様々な企業が同じ機能の製品が販売されているため、どれを買ったとしても目的は最低限果たすことができます。また飲食店では限られた予算でお腹を満たすことができますし、航空会社が違ったとしても出発地と到着地は変わりません。
このように得られる機能がほとんど同じで、切り替えたとしても大きなリスクが発生しない場合は、顧客が気軽に切り替えを行ってしまうため、商品やサービス単体ではLTVの計算が難しくなります。
LTVとスイッチングコストの関係
ここまでターゲットとする市場によってLTVが違うことを説明しましたが、このようなことが起こる一番の理由が「スイッチングコスト」の存在です。
スイッチングコストとは、
- ある製品やサービスから別の製品やサービスに切り替える場合に必要なコスト
のことで、具体的には、
- 金銭的コスト:他の製品やサービスに切り替えるために必要な金銭的な負担
- 手続き(物理的)コスト:他の製品やサービスに切り替えるための手間暇
- 探索コスト:新たに切り替える製品やサービスを探すための負担
- 移動コスト:切り替えることによる物理的な移動距離の変化
- 作業コスト:切り替えに必要な書類手続きなどの作業
- 学習コスト:切り替え後に新たに覚えなければならないことへの負担
- 関係性(心理的)コスト:他の製品やサービスとの関係性を再構築する負担
などのコストに分類することができます。
もし顧客にとって商品やサービスのスイッチングコストが高ければ、LTV(ライフタイムバリュー)は長くなる傾向にあります。
スイッチングコストのより詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。