消費者が製品やサービスを購入しようと心に決めても、
- 他人の態度
- 知覚リスク
の2つの要因によって妨害されることがあります。
前者の他人の態度への反応は、
- 消費者が好きなブランドに対して他人がどれだけ否定的か
- 消費者が他人の意見にどれだけ合わせようとするか
によって決まります。
また後者の知覚リスクは、
- 機能的リスク:期待した機能が得られない可能性
- 身体的リスク:肉体的に悪い影響がある可能性
- 心理的リスク:精神的に悪い影響がある可能性
- 金銭的リスク:支払った対価と見合わない可能性
- 社会的リスク:利用することで他者に嫌がられる可能性
- 時間的リスク:代わりになるものを探す手間が発生する可能性
の6つのリスクに分類することができます。(「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 」p247 より)
ここでは消費者の購買を阻害する要因について、わかりやすく説明します。
購買妨害要因:他人の態度
まず1つ目の、購買を妨害する要因は「他人の態度」です。
消費者は自分の意思で製品やサービスを購入しますが、その行動は「準拠集団(じゅんきょしゅうだん)」と呼ばれるグループの影響を強く受けます。
準拠集団は、
- 第一次準拠集団:家族、友人(オンライン含む)、隣人、同僚など
- 第二次準拠集団:職場団体、労働組合、宗教団体など
- 願望集団:本人は属していないがそこに属したいと思っているグループ
- 分離集団:本人にとって価値観や態度を受け入れられないグループ
の4つに分けることができます。
これらの準拠集団は、
- 新しい行動やライフスタイルを個人に示す
- 個人の態度や価値観に影響を及ぼす
- 個人が周りと同じ選択をするようなプレッシャーを与える
などの影響を消費者に与えることで知られています。
また上記の情報源に加えて、
- 専門家によるレビュー記事
- 製品やサービスを評価するクチコミサイト
- 公的な機関が発表した調査結果
なども「他人の態度」として消費者に影響を与えます。
これらの他人の態度によって、
- 消費者が好きなブランドに対して他人がどれだけ否定的か
を知ることができます。
そしてそのような否定的な意見に対して、
- 消費者が他人の意見にどれだけ合わせようとするか
によって、製品やサービスを買おうとする気持ちに折り合いをつけます。
好みに否定的な他人の意見
もしあなたが好んで使っているアパレルブランドに関して、
- 「あのブランドの東南アジアの工場では、小さな子供たちが劣悪な環境で働いている。だからあのブランドのことが嫌いになった。」
という話を、親しい友人から聞いたとしたらどう感じるでしょうか?
おそらく、あなたはその友人の前ではそのブランドの洋服は着ないでしょう。また新しく洋服を買おうと思っていても、そのブランドの服を買うことを少しためらうかもしれません。
このように、消費者は好みに否定的な他人の意見によって購買行動を妨げられることがあります。これはその相手と消費者の関係が近ければ近いほど、強く影響を与えます。
他人の意見に合わせようとする気持ち
そしてその消費者が他人の否定的な意見に対して、どれくらい意見を合わせようという気持ちを持っているかによって、購買行動が変化します。
例えばあなたの好きなブランドに対して、気になっている異性が否定的な意見を持っていたとします。そういった場合には「相手に気に入られたい」という気持ちで、ある程度会話を合わせるかもしれませんし、デートの時にそのブランドを身に着けることをやめるかもしれません。
逆に「飾らずに話せる相手を見つけたい」場合には、相手が否定的な意見を持っていたとしても合わせることはせず、行動もあまり変化しないかもしれません。
このように、
- 好みに否定的な他人の意見
があることに加えて、
- 他人の意見に合わせようとする気持ち
が強いかどうかで、購買行動への影響が決まります。
購買妨害要因:知覚リスク
購買行動を妨げるもう一つの要因は、消費者が認識する「知覚リスク」です。
知覚リスクとは、消費者が製品やサービスを利用する前に認識するリスクのことで、リスクが悪い方向に大きいと判断すれば、購買行動を妨げることになります。
そのため、消費者は知覚リスクを最小限に抑えるために、
- 内部探索:自分自身の記憶や知識から情報を集めること
- 外部探索:自分以外の情報源から情報を集めること
などを行います。
この知覚リスクは、
- 機能的リスク:期待した機能が得られない可能性
- 身体的リスク:肉体的に悪い影響がある可能性
- 心理的リスク:精神的に悪い影響がある可能性
- 金銭的リスク:支払った対価と見合わない可能性
- 社会的リスク:利用することで他者に嫌がられる可能性
- 時間的リスク:代わりになるものを探す手間が発生する可能性
の6つに分けることができます。
これらのリスクは消費者の購買を妨げますが、逆に言えば、リスクを解消することで新しいビジネスを生み出すことにもつながります。
機能的リスク
消費者は製品やサービスに対して、何かしらの機能を期待しています。そして期待している機能が得られないと気づくと、購買をためらいます。
例えば、ファストフード店を利用しようとする消費者は、飲食物の提供が早い(ファスト、fast)であることを期待します。しかし、もし店内に長い行列ができていて列が一向に進む様子がなければ、消費者は「飲食物の提供が早いという機能が得られないのでは?」というリスクを考えて、別のお店を探すかもしれません。
身体的リスク
多くの消費者は、製品やサービスを利用することによって、自分や他人に身体的な健康被害を起こすことを望んでいません。そのため、タバコのように中毒症状を発症するような製品を除いては、健康被害などの身体的リスクが、購買を妨げる要因になります。
例えば、食品メーカーなどが食中毒事件を起こした場合に、消費者は身体的なリスクを認識して購入を控えるようになります。
上記のような事件では、消費者が身体的リスクで該当ブランドの製品を買い控えるようになっただけでなく、ブランド失墜による影響で企業グループが解体されるまでに至りました。
他にも、もっと軽い例であれば、
- 「このゲームを買ったら寝不足になりそうだからやめておこう。」
- 「このお菓子は美味しいけど買ったら太りそうだからやめておこう。」
というのも身体的リスクによる購買抑制です。
心理的リスク
特定の製品やサービスは、身体的な健康被害だけでなく精神的な健康を阻害するものもあります。
例えば、金融サービスを利用して多額の資金を借り入れた場合は、借金の返済に追われることによって精神的にまいってしまうかもしれません。もし借金の怖さを知っている消費者であれば、お金を借りる前に「ここで借金するくらいなら今は我慢してお金を貯めよう」と金融サービスの利用を考え直すかもしれません。
他にも、
- 「この値動きが激しい時期に株を買うと四六時中気になるのでやめておこう。」
- 「ホラー映画を観ると夜に思い出して寝られなくなるので観ないでおこう。」
- 「飛行機は乗ってる間ずっと落ち着かないので移動は電車にしておこう。」
などと考えることも心理的リスクによる購買行動の変化です。
金銭的リスク
金銭的リスクとは、製品やサービスが支払った対価に見合わない可能性がある場合に感じるリスクです。
この「対価に見合わない」というのは、必ずしも「価値と対価が見合わない」というわけではなく、「価値を活かしきれない」という場合も含みます。
例えば居酒屋で、
- 「今日の飲み会はお酒を飲む人が1人しかいないから、飲み放題を注文するのはやめておこう。」
といった判断をする場合などが、金銭的リスクによる購買行動の変化です。これが飲み放題の値段が価値に見合わないわけではなく、飲み放題の価値を活かしきれないことが金銭的リスクになっています。
他にも、
- 「今日はキャベツの値段が高すぎるから買うのをやめよう」
- 「新幹線での移動距離が短い時は指定席だともったいないな」
などが金銭的リスクの例になります。
社会的リスク
社会的リスクとは、製品やサービスを利用したことによって他人から嫌がられる可能性のことです。最初にご紹介した「他人の態度」との違いは、製品やサービスを利用する前に起こるか後に起こるかということです。
「他人の態度」による購買行動の抑制は製品やサービスを利用する前の影響であり、社会的リスクは利用した後のリスクを指しています。
例えば、
- 「この奇抜な洋服が気になるけど着たら知り合いに笑われるかも…。」
- 「高級なレストランに一人で食事に行ったら周りから変な目で見られるかも…。」
- 「女性客の多いスイーツ店におじさん二人で行ったら他の客に嫌がられるかも…。」
というのが社会的リスクになります。
この社会的リスクは、消費者自身の社会的な立場に起因していることが多く、消費者の社会的な立場にそぐわない場合に認識されます。
時間的リスク
時間的リスクとは、万が一その製品やサービスから十分な価値が得られなかった場合に、再び他の製品やサービスを探すために時間を費やさなければならなくなるリスクのことです。
これはスイッチングコストの、
- 手続き(物理的)コスト:他の製品やサービスに切り替えるための手間暇
と似たような意味で、製品やサービスを利用する前に「手続きコスト」が高いことを認知した場合のリスクになります。
例えば、家電量販店に立ち寄った時に自宅のプリンターのインクが切れていたことを思い出しても、インクの型番を覚えてなければ買うのをためらう人が多いと思います。
これは間違ったインクカートリッジを買った場合に、
- 返品のためにお店に立ち寄る時間
- 返品作業にかかる時間
などが時間的リスクになるためです。
このように消費者が事前に手間暇がかかる可能性を感じると、その場での購買をためらうことがあります。