ニーズとは、
- 消費者が持つ課題の解決や目的を達成する必要性
のことで、
- 潜在ニーズ:必要性があることに消費者自身が気づいていないニーズ
- 顕在ニーズ:必要性があると消費者自身が気づいているニーズ
の2つに分けることができます。
これらの「潜在(せんざい)ニーズ」と「顕在(けんざい)ニーズ」の違いを表したのが、下記の表になります。
潜在ニーズ | 顕在ニーズ |
消費者が自覚していない | 消費者が自覚している |
解決しようとしていない | 解決しようとしている |
顕在ニーズに変化する | ウォンツに変化する |
マーケティング活動では、顕在化していないニーズ(潜在ニーズ)を顕在化させることや、すでに顕在化しているニーズを自社に有利な「ウォンツ」に変化させることが必要です。
ここでは「潜在ニーズ」と「顕在ニーズ」について、わかりやすく説明します。
ニーズとは?
ニーズとは、消費者が課題を解決したり目的を達成したりする「必要性」のことです。「欠乏感」とも表現されることがありますが、消費者がその欠乏感自体に気づいていないことも多くあります。
ニーズ(必要性)は、マーケティング活動によって「ウォンツ(欲求)」に変化し、最終的には「デマンド(需要)」という形で購買につながります。
それぞれの用語の意味については、
- ウォンツ:課題や目的を解決するための具体的な手段に対する欲求
- デマンド:ウォンツに消費者の支払い能力が伴うことで生まれた需要
ですが、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ニーズは、
- 消費者が必要性に気づいていない潜在(せんざい)ニーズ
- 消費者が必要性に気づいている顕在(けんざい)ニーズ
に分けることができます。
ニーズ自体はとても抽象的であり、消費者自身がどうやって解決すべきか頭の中に思い浮かんでないことがほどんどです。
消費者自身が「困ってる」「どうにかしたい」などと、はっきり認識している(顕在化している)ニーズもあれば、はっきりと認識できていない潜在的なニーズもあります。
ここからはそれぞれのニーズについて、より詳しく解説していきます。
潜在ニーズ
潜在ニーズとは、消費者自身が物事を「あたりまえ」と思っている状態で、必要性自体が顕在化(ハッキリ)していない状態のことです。
この「潜在ニーズ」はマーケティング活動によって、「顕在ニーズ」へと変化させることが一般的です。しかし革新的な商品やサービスでは一気に「デマンド」にまで変化することがあります。
つまり潜在ニーズで考えなければならないのは、
- 潜在ニーズの顕在化
- 直接的なデマンド化
の2つになります。
潜在ニーズの顕在化(けんざいか)
潜在ニーズは消費者自身が自覚していないため、そのままでは製品やサービスを欲しいと感じる「ウォンツ(欲求)」に変化させることは難しくなります。
そのため、潜在的なニーズがあるかどうかは、マーケティングリサーチ(マーケティング調査)によって明らかにする必要があります。
そして明らかになった潜在ニーズを「顕在ニーズ」に変化させることで「ウォンツ」との間を繋ぎます。
潜在ニーズを知るためのマーケティングリサーチ(調査)の方法は、
- 質問法:調査対象に質問することで情報を集める
- 観察法:調査対象の行動や反応を観察することで情報を集める
- 実験法:実験によって特定の因果関係を調べる
- フォーカスグループ:調査対象を数人集めて討論させて情報を引き出す
- 行動データ:調査対象の購買記録や行動に関する情報を集める
の5つのタイプに分けることができます。
ただし、潜在ニーズは消費者自身が自覚していないので、消費者が自ら答える「質問法」や「フォーカスグループ」だけでは発見することが難しいかもしれません。
逆に、「観察法」「実験法」「行動データ」などで客観的に消費者を観察し、分析結果から潜在ニーズを突き止める方が効果的です。
今度は発見した潜在ニーズを、顕在ニーズに変化させる必要があります。
例えば、寝具メーカーがマーケティング調査を行った結果、
- ターゲット層に朝の体のだるさを自覚していない消費者が多い
ということがわかったとします。
この潜在ニーズを顕在化させるためには、
- 潜在ニーズ:消費者「朝起きて体がだるいのは当たり前」
- マーケティング活動:企業「朝起きて体がだるいのは睡眠環境に問題があるかも」
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
という流れで、顕在ニーズに変化させることができます。
直接的なデマンド化
潜在ニーズは、消費者が特定の製品やサービスの購入に至る「デマンド」に直接変化することもあります。
これは厳密に言えば、「潜在ニーズ → 顕在ニーズ → ウォンツ → デマンド」への変化が一瞬で起こった状態のことです。
消費の現場では、
- 「なにこれ?良さそう!買おう!」
というように、消費者がニーズを自覚していなかった状態から、直感で購買決定まで到達することも起こります。
例えば、
- 潜在ニーズ:消費者「部屋の掃除は自分でするのが当たり前」
- マーケティング活動:企業「ロボット掃除機『〇〇』なら外出中に部屋の掃除が終わります!」
- デマンド:消費者「なにこれすごい!ロボット掃除機『〇〇』を買おう!」
という場合です。(もちろんすべての消費者が同じようになるわけではありません。)
家庭用のロボット掃除機が登場する前は、消費者が自分自身で部屋のゴミを掃除機で吸い取るのが当たり前でした。部屋が汚れてくれば「掃除をしなきゃ」という顕在ニーズが現れます。それを解決するのが、通常の掃除機であったり、清掃サービスだったりします。
しかし「ロボット掃除機」は、それまでの消費者が考えていた「人が掃除をする」という前提を覆すことで、「顕在ニーズ → ウォンツ → デマンド」という流れを一瞬で飛び越える状況を生み出します。
顕在ニーズ
顕在ニーズとは、課題や目的を解決するための必要性を消費者が自覚している状態です。
この顕在ニーズの状態では、消費者の意識は抽象的であるため、マーケティング活動によってより具体的な「ウォンツ」へと変化させる必要があります。
顕在ニーズに関わるマーケティング活動としては、
- 顕在ニーズのウォンツ化
- 製品(サービス)コンセプトの変更
などがあります。
顕在ニーズのウォンツ化
最も王道のマーケティング活動は、顕在ニーズを「ウォンツ」に変化させることです。
先ほど挙げた寝具メーカーの例で考えると、
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
という形で顕在化したニーズを、取り扱っている「寝具」のウォンツにつなげなければなりません。
そこでマーケティング活動は、
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
- マーケティング活動:企業「睡眠環境は自分に合った枕で改善できます」
- ウォンツ:消費者「自分にピッタリ合った枕が欲しい!」
という形にすれば、うまくウォンツに誘導することができます。
ここで注意しなければならないのは、もし潜在ニーズが同じだったとしても顕在ニーズが違えば、ウォンツに変えることが難しくなるということです。
例えば、製薬メーカーが、
- 潜在ニーズ:消費者「朝起きて体がだるいのは当たり前」
という寝具メーカーと同じ潜在ニーズを発見したとします。
しかしニーズの顕在化をせずに、
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
という潜在ニーズにビタミン剤でアプローチしようとすればどうなるでしょうか?
- 潜在ニーズ:消費者「朝起きて体がだるいのは当たり前」
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
- マーケティング活動:企業「ビタミンを取れば朝すっきり起きられます」
- ウォンツ:消費者「…?」
となって、ウォンツに至らないかもしれません。
ここで注目が必要なのは、製薬メーカーもちゃんと潜在ニーズを解決する方法を提案しているということです。
それにも関わらず、ウォンツ化しないのは、顕在ニーズとマーケティング活動の内容が離れているからです。
「こんな下手なことするマーケターはいないでしょ (笑) 」と思う方もいるかもしれませんが、普通に起こってしまうのが現実です。
潜在ニーズと顕在ニーズを区別していなければ、
- 消費者の潜在ニーズを解決する = 宣伝すれば売れる
と考えてしまうこともあります。
その結果、消費者の潜在ニーズを満たしているのにもかかわらず、消費者が持っている顕在ニーズと一致しないマーケティング活動をしてしまうことで成果につながらないことが起こります。
このことは知覚プロセスの「選択的注意」の側面からも説明できます。
選択的注意とは、
- 人は特定の刺激にだけ選択的に注意を向ける現象
のことです。
消費者はいくら情報を与えても、
- 自分には関係ないことだ
と思えば、注意を向けることはありません。
そのため、顕在ニーズとマーケティング活動のメッセージが一致していなければ、消費者は注意を向けず、興味も持たず、ウォンツに変化する可能性がとても低くなります。
この場合の対応策は「ニーズの再顕在化」です。
これを先ほどの製薬メーカーで例えると、
- 潜在ニーズ:消費者「朝起きて体がだるいのは当たり前」
- マーケティング活動:企業「朝、体がだるいのはビタミン不足のせいかも」
- 顕在ニーズ:消費者「自分は不足するビタミンを摂る必要性がある!」
- マーケティング活動:企業「ビタミンを取れば朝すっきり起きられます」
- ウォンツ:消費者「朝すっきり起きれるビタミン剤が欲しい。」
というようにニーズ顕在化のマーケティング活動の内容を変えることで、「潜在ニーズ → 顕在ニーズ → ウォンツ」の流れがよりスムーズになります。
製品(サービス)コンセプトの変更
顕在ニーズをウォンツに変えるもう一つの方法は、
- 製品やサービスのコンセプトを顕在ニーズに合ったものに変更する
ことです。
先ほどの例では、
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
という顕在化したニーズに対しては、
- マーケティング活動:企業「ビタミンを取れば朝すっきり起きられます」
という訴求では一致度が低い状態でした。
しかし、
- マーケティング活動:企業「ビタミンを取れば睡眠の質が良くなります」
という訴求を行えば、顕在ニーズと製品のコンセプトが近づくので、消費者に興味を持ってもらえる可能性が高まります。
このように、顕在ニーズと自分たちの扱っている製品やサービスがかけ離れているように思えても、切り口を変えることで「ウォンツ」に導けることがあります。
潜在ニーズと顕在ニーズの活用
潜在ニーズや顕在ニーズを上手く活用すれば、競合他社を出し抜くことも可能になります。
その方法は、
- 潜在ニーズの再確認による新たなビジネスチャンスの発見
- 既存の顕在ニーズの拡張と軸の移動
などが挙げられます。
潜在ニーズの再認識で新たなビジネスチャンスを見つける
すでに顕在化されているニーズに対応することは、マーケターにとってそれほど難しいことではありません。
「困ったなぁ」「こうなればいいのになぁ」といった消費者の声に耳を傾ければ、顕在ニーズをウォンツに導き、最終的には特定の製品やサービスのデマンドに結びつけることができます。
しかしそれは競合他社も同じです。
顕在ニーズに対応した製品やサービスが市場にあふれると、最終的には差別化が難しくなり価格競争に陥ります。こういったことを避けるためには、顕在ニーズの手前に存在している潜在ニーズを再確認して別の顕在ニーズを導き出して、新たなビジネスチャンスを見つけることが必要になります。
これは先ほどご紹介した「ニーズの再顕在化」と仕組みは同じです。違いは同じ企業が同じニーズに対して、何度も顕在化を試みるという点です。
新しいビジネスチャンスを見つけるためには、ニーズを再び顕在化させるときに、
- 競合他社の対応が不十分なニーズを顕在化させる
- 新たな顕在ニーズに対応した製品やサービスを開発する
ことが必要です。
消費者が持っている悩みや困りごと(潜在ニーズ)に対して、従来とは別の角度からニーズを再定義する(顕在化する)だけでなく、ニーズを満たせるウォンツを提示することで、新しいビジネスを生み出すことができるかもしれません。
ここで参考になるのが「マーケットイン」という製品開発の手法です。
マーケットインとは、
- 消費者のニーズやウォンツを起点にマーケティングを行う方法
のことです。
元々の潜在ニーズと、新たに顕在化させるニーズを起点とすることで、競合他社の対応が不十分な切り口から製品やサービスを開発することができます。
その場合に活用したいのが「コア・コンピタンス」と「ケイパビリティ」です。
それぞれ、
- コア・コンピタンス:中核になる「技術」
- ケイパビリティ:連携による「実行力」
のことです。
コアコンピタンスを利用することで、より高いレベルの製品やサービスを開発でき、競合他社に模倣される(真似される)可能性を下げることができます。
またケイパビリティも同様に、社内外のスムーズな連携によって新製品のマーケティングを実行し、消費者の手元にいち早く届けることで、新しい市場のシェアの獲得に良い影響を与えることができます。
これらについて詳しい情報は、下記の記事も参考にしてください。
既存の顕在ニーズを拡張する・軸をずらす
既存の顕在ニーズを活用して競合他社を出し抜くためには、
- 顕在ニーズを拡張する
- 顕在ニーズの軸をずらす
ということが考えられます。
例えば先ほどの例のように、
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
という顕在化されているニーズがあれば、多くの企業は「睡眠環境」の改善に関する製品やサービスを開発するはずです。
しかしここで少し曖昧なのは、
- 「睡眠環境」が何を指しているのか?
ということです。
多くの人のイメージでは、
- 睡眠環境 = ベッド・枕・布団などの寝具
と考えるかもしれません。
しかしこの認識を拡張することもできます。
もし、
- 睡眠環境 = 寝具・部屋の温度や湿度・部屋の明るさ
などとさらに広くとらえると、市場が大きくなります。
そうなれば寝具だけでなく、エアコン、冷暖房器具、照明器具などの家電も顕在ニーズに対応できる製品になります。
これに当てはまる実際の事例が、株式会社ロビットの「モーニンプラス」という製品です。

株式会社ロビット モーニンプラス製品説明サイト 2019年10月10日時点
この「モーニンプラス」という製品は、
- 潜在ニーズ:消費者「朝起きて体がだるいのは当たり前」
- 顕在ニーズ:消費者「自分は睡眠環境を改善する必要性がある!」
というニーズに対して、
- カーテンの開け閉めを自動で行って部屋の明るさをコントロールする製品
で対応しています。
このように、既存の顕在ニーズに十分対応できていると多くの人が考えていたとしても、顕在ニーズの定義範囲を拡張し、他社と違う軸で顕在ニーズを見つめることで、新たなビジネスチャンスを見つけることができるかもしれません。
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