だいぞう
バンドワゴン効果とは、
- 人気が高くなるほど、需要が高まる現象
のことで、スノッブ効果とは、
- 利用者が少ないほど、需要が高まる現象
のことです。
そしてヴェブレン効果は、
- 高価なものほど、需要が高まる現象
のことです。
いずれもアメリカの経済学者であるハーヴェイ・ラベンシュタイン教授 の1950年の論文「Bandwagon, Snob and Veblen Effects in the Theory of Consumers’ Demand (消費者需要理論におけるバンドワゴン効果、スノッブ効果、及びヴェブレン効果)」に登場した経済学の用語です。
また関連する用語として「アンダードッグ効果(underdog effect、判官贔屓効果、負け犬効果)」「ネットワーク効果(network effect、ネットワーク外部性)」などがあります。
ここでは、それぞれについてわかりやすく図解します。
バンドワゴン効果とは
バンドワゴン効果(bandwagon effects)とは、特定の商品やサービスが「たくさんの人が利用している」と消費者に認識された場合に、より多くの消費者がその商品やサービスに魅力を感じたり関心を強めたりする認知バイアス(非合理的な心理現象)のことです。
わかりやすく言うと、
- 流行り出したとたんに、興味がなかった人たちも急に興味を持ち始める
といった現象です。
- 人気のあるスポーツチームだから応援したくなる
- お店に行列ができているから自分も並んで買いたくなる
- みんなが同じゲームで遊んでいるからそのゲームが面白そうに見えてくる
- たくさんの有名人が身につけているアクセサリーが欲しくなった
などなど日常生活で枚挙にいとまがありません。
一時期問題となった、著名人が一斉に特定の商品やサービスを話題に挙げる「ステマ(ステルスマーケティング)」は、バンドワゴン効果を意図的に狙った広告手法として知られています。
ところで、そもそも「バンドワゴン」が何かというと、音楽パレードで先頭を走る「楽隊車」のこと(以下の写真はウィキメディアよりパブリックドメインの画像を引用)。
バンドワゴン(楽隊車)を追いかけるように、マーチングバンドが楽器を演奏しながら後ろをついていきます。この様子を、人気者を追いかけるファンがどんどん増える様子に例えて、バンドワゴン効果と呼んでいます。
バンドワゴン効果と需要供給曲線の変化
ここからは、経済学でお馴染みの需要曲線や供給曲線でバンドワゴン効果を説明します。苦手な人は、流し読みしていただいて問題ありません。
ということで、下図は経済学の教科書のおさらいです。
「D」という需要曲線(Demand curve)が存在しているときに、特定の財(商品やサービス)の価格が「Px」から「Py」に下がった時、消費される数量が「Qx」から「Qy」に増加することをあらわしています。
要は「安くなったらたくさんの人が買う」ってことです。その逆も然り。
そしてバンドワゴン効果が起きるとどうなるか?
つまり、消費者が「たくさんの人が利用している」「人気がある」と感じた時に何が起こるかを表したのが以下の図です。
仮に「D1」を、消費者が「人気があると感じていない」状態とすると、「D4」に向かうにつれて「たくさんの人が利用している」と感じる度合いが高まっていくようなイメージです。
ここでポイントなのが、
- 実際に利用者が多いかどうかは関係なく、「多い」ように感じるだけで効果が現れる
ということ。
だからこそ実際の利用者がごく少数だとしても、ステルスマーケティングのような演出で効果が現れます。
映画の宣伝で「全米が泣いた」「興行収入No.1」「ランキング1位」という文言を並べるのもバンドワゴン効果を狙ったものです。
このような、バンドワゴン効果が起こった場合は、供給側(つまりメーカーや売り手)は需要に対応できるように供給量を増やす必要があります。
上図では「D4」の需要に対応できる供給体制を「S4」という供給曲線(Supply curve)で表しています。
バンドワゴン効果による需要増大に気づかない場合
では、もし供給者(売り手)がバンドワゴン効果が表れていることに気づかなかったらどうなるでしょう?
その気づかなかった場合を表したのが下図です。
商品やサービスの人気が高いと認識した消費者は「D4」の需要曲線に基づいて行動します。しかし供給者は「S2」の供給体制しかありません。
元々の価格である「P2」で販売するためには、メーカーは「Q4」の個数の商品を生産しておかなければなりませんが、実際は「D4」と「S2」の交点にある「Q3」の個数しか売ることができません。
その結果、商品の不足が起こり、転売や中古品の価格高騰などで「P4」まで値段が上がってしまいます。消費者にとっては不満が残り、売り手にとっては機会損失となります。
持ち上げて落とされるバンドワゴン効果
しかし、売り手としてはバンドワゴンによる需要の増加に、必ず対応しなければならないのでしょうか?
これは必要な場合とそうでない場合の両方があります。
一つの判断基準としては、市場シェアの獲得および拡大が、戦略上重要であるかどうかです。
例えば、数年ごとに流行とバンドワゴン効果が繰り返されるタピオカミルクティーなどは、特定のブランドが市場で高いシェアを握ったとしても、次のブームが来る頃には忘れ去られてしまいます。
このような場合には、バンドワゴン効果による需要の変化を冷静に観察しながら程々に対応し、需要がピークを迎える頃には撤退または店舗を売却するのが有効な戦略となります。
一方で、シェアが高いブランドが総取りするような市場(例えば、利用者が多い商品が業界のスタンダードになる市場)では、需要対応こそが競合との勝負の分け目となります。
デジタル化とバンドワゴン効果
2000年代以降、インターネットが普及して、さまざまな商品やサービスがデジタル化されました。
デジタル化によって、生産コストが大きく引き下がり、下図のように供給曲線が横に寝た状態(供給曲線Sd)になります。その結果、バンドワゴン効果で需要曲線が急速に移動しても、容易に価格「P」を維持することが可能になりました。
例えば、音楽などが好例です。
デジタル化以前は、音楽はレコードやCDなどの物理メディアで販売されていました。
昔は、人気の歌手でバンドワゴン効果が起こった場合には、物理メディアの生産体制がボトルネックになってしまいます。レコードやCDが売り切れとなり、転売などでプレミア価格になり、市場の需要に十分に対応できませんでした。
しかしデジタル化されたおかげで、楽曲の複製費用は著しく低下し、需要の急激な増加に対しても対応が可能となりました。
アンダードッグ効果とバンドワゴン効果の違い
バンドワゴン効果の逆の概念として、アンダードッグ効果(underdog effect、判官贔屓効果、負け犬効果)があります。
アンダードッグ効果は、
- 人気が低いからこそ応援したくなる現象
のことで、
- 負けているスポーツチームを応援したくなる
- 負けそうだと噂されている選挙候補者に票を入れたくなる
- 1位を奪われてしまったブランドを買って応援したくなる
などが例として挙げられます。
選挙の投票などではアンダードッグ効果によって、前評判で当選しないだろうと予想されていた立候補者が、開票してみたら逆転当選していた、ということが起こることがあります。
ネットワーク効果とバンドワゴン効果の違い
バンドワゴン効果が引き合いに出される事象に、ネットワーク効果(network effect、ネットワーク外部性)があります。
ネットワーク効果とは、
- 商品やサービスの価値や効用が、その利用者の数に依存する現象
のことです。
バンドワゴン効果は、商品やサービスが魅力的に見えるだけですが、ネットワーク効果では、商品やサービスの実際の価値が高まります。
例えば、ソーシャルネットワークサービス(SNS)は、利用者が増えれば増えるほど利用者同士のつながりが増えます。その結果、利用者の相互コミュニケーションの利便性が高まり、より多くの利用者を惹きつけます。
一方で、バンドワゴン効果は商品やサービスの価値そのものは高まりません。タピオカミルクティーを飲む人が急速に増えても、タピオカミルクティーの味や食感が良くなるわけではありません。