インターナル・マーケティングとは従業員に対して、
- マーケティングの観点から社内業務を提供して従業員満足度(ES)を高める
- マーケティング戦略への理解を促して全社的な協業体制を築く
という2つの意味があります。
前者の意味は、中小企業診断士などの資格試験で登場することが多く、後者の意味は、包括的(ホリスティック)マーケティングの観点で説明する場合に使われます。
いずれも企業から従業員に対する働きかけであり、図に表すと下のようになります。
また、このインターナルマーケティングと関連が深いマーケティング用語として、
- エクスターナル・マーケティング(対外的マーケティング)
- インタラクティブ・マーケティング(双方向マーケティング)
という言葉も存在します。
ここでは、「インターナル・マーケティング」に加えて、「エクスターナル・マーケティング」と「インタラクティブ・マーケティング」について図解でわかりやすく説明します。
インターナル・マーケティング
インターナルマーケティングは、
- 社内業務をマーケティング対象として従業員満足度(ES)を高める
- 計画したマーケティング戦略への理解を促して全社横断的な協力体制を築く
ことです。
「社内マーケティング」とも呼ばれて、対義語は「エクスターナル・マーケティング(対外的マーケティング)」になります。
どちらも企業が従業員に対して行う施策ですが、意味が大きく違うので、それぞれについて詳しく説明位します。
従業員満足度を高める
資格試験などでよく問われるのは、こちらの意味のインターナルマーケティングになります。
従業員の仕事に対するニーズやウォンツを満たす労働環境を提供して「従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)」を高めることで、
- 組織に対するロイヤルティの向上
- 仕事に対するモチベーションの向上
- 顧客対応の質の向上
- 離職率の低下
などのプラスの効果を期待することができます。
例えば企業と従業員を「売り手」と「買い手」の立場で考えると、
- 売り手:企業
- マーケティングの4P
- 製品:仕事内容、経営理念など
- 価格:給与、手当、福利厚生など
- 流通:労働環境、通勤場所など
- プロモーション:採用活動、社内求人など
- 買い手:従業員
- 対価:労働力
となります。
つまり企業は、
- 魅力のある仕事内容と労働環境
- 仕事内容に見合った給与
を従業員に提供する代わりとして、
- 従業員の労働力
を対価として受け取っている、と考えることができます。
これをマーケティングの観点から考えると、
- 従業員の仕事に対するニーズやウォンツ
を理解しなければ、
- 優秀な人材の労働力
を対価として得ることはできませんし、
- 従業員の能力を最大限まで引き出す
こともできません。
そのため、「仕事」そのものをマーケティング対象としてマーケティングを行う必要があります。
もちろん単純に「従業員の希望する仕事をさせる」だけでは、企業にとっても従業員にとっても有益な取引にはなりません。
なぜなら労働は一回だけの取引ではなく、
- 毎日繰り返される長期的な取引
だからです。
そのため短期的な従業員のニーズやウォンツを満たすだけでなく、「従業員の成長」を通した「企業の発展」を実現する必要があります。
この従業員満足度を高めるためのインターナルマーケティングの手順としては、
- 仕事内容や労働環境についてマーケティング調査を行う
- VRIO分析などで仕事に関する経営資源の優劣を確認する
- キャリアパス・教育制度・評価制度などを含めた「仕事」の開発を行う
- 従業員に「仕事」を提供して継続的な改善を行う
ことが大まかな流れです。
これらの結果、企業に対する従業員満足度(ES)が向上し、
- 従業員自身が自社のファンになる
ことで、
- 従業員の顧客対応(後述する「インタラクティブ・マーケティング」)の質
も向上します。
そして最終的には顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)の向上に繋がると考えられます。
ちなみに中小企業診断士試験で問われるインターナルマーケティングですが、
- 従業員のモラールやモチベーションの向上策を打つ
- 従業員の満足度が向上する
- 従業員の会社に対するロイヤリティ(忠誠心)が高まる
- 従業員の離職率が低下する
- 従業員が顧客との関係性を維持しやすくなる
- サービス品質が向上する
- 顧客満足度が向上する
- 顧客が固定客化したりクチコミによる新規顧客が増加する
という順番で効果が現れるとされています。(現実はこんなにうまく効果が連鎖することはありませんし、それぞれの因果は直線的ではなく互いに影響しあっています。)
マーケティング戦略への理解を促す
もう一つのインターナルマーケティングとして、経営幹部や従業員に対してマーケティング戦略への理解を促すことで、企業全体が一丸となってマーケティングの施策を行うための体制づくり、という定義もあります。
こちらのインターナルマーケティングの定義は、「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 」などのビジネススクールで使われている教科書で確認することができます。
マーケティングの大家であるコトラー教授は、
賢明なマーケターは社内向けのマーケティング活動も、社外向けのマーケティング活動と同等か、むしろそれ以上に重要なものだと認識している。社内スタッフにまだ提供する準備ができていないのに優れたサービスを約束するのはナンセンスである。
「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版」第1部第1章より引用
というように、従業員に向けたインターナルマーケティングが顧客に向けたマーケティング(エクスターナル・マーケティング)と同じくらい重要だということを著書で述べています。
この社内体制を整えるためのインターナルマーケティングが成立する条件としては、
- マーケティング機能を担う部門が協力しあうこと
- そのほかの部門もマーケティングを理解する
ことが挙げられます。
まず一番大切なのは、企業が実行しようとしているマーケティング戦略に直接的に関係している部署が、お互いに協力し合うことです。そのためには、特に経営幹部がマーケティング戦略に対する理解を深め、迅速に行動することが重要です。
例えば、マーケティング戦略として顧客のニーズを反映した製品改良を行い、ターゲット顧客が魅力的に感じる価格でプロモーションを行うためには、
- マーケティング調査担当者
- 製品開発部門
- 財務担当者
- プロモーション担当者
などが協力しなければ実現できません。
そのためには、それぞれの部門の意思決定権を持つ経営幹部がマーケティング戦略を理解し、人員や予算を動かす必要があります。
また現場レベルでも担当者が部門横断的に連携して、ギャップのすり合わせを行わなければマーケティング戦略を実行することができません。
しかしそれだけでは十分でなく、マーケティング戦略に直接関係しない部門においても、マーケティング戦略への理解を深めることが望ましいとされています。
なぜなら、
- 顧客にとって企業は一体的な存在
だからです。
顧客にとっては、接点にいる従業員がその企業の代表者です。そして顧客が接する従業員の対応に一貫性がなければ、不満や不信感を感じます。そうならないためには、従業員全体がマーケティング戦略への理解を持って行動する必要があります。
もし全ての従業員が、
- 自社が顧客に対してどんな価値を提供しようとしているか
をしっかり理解していれば、理解していない場合と比べて顧客対応の内容は大きく違うはずです。
そのためには、インターナルマーケティングを十分に実施してマーケティング戦略の理解を深め、企業全体で一丸となって戦略を実行できる体制を作らなければなりません。
エクスターナル・マーケティング
ここからはインターナルマーケティングの補足的な解説になります。
インターナルマーケティングは、「社内マーケティング」とも呼ばれます。これと対比して、社外に対する一般的なマーケティングのこと「エクスターナル・マーケティング(対外的マーケティング)」と呼びます。
エクスターナルマーケティングは、企業が顧客に対してマーケティングミックス(4P)を中心としたマーケティング活動を行うことです。
インタラクティブ・マーケティング
インタラクティブマーケティングとは、
- 顧客接点にいる従業員が顧客に直接的に行うマーケティング活動
のことです。
この顧客接点にいる従業員のことを、
- コンタクトパーソナル(CP:Contact Personal)
と呼び、CPの能力が顧客満足度(CS)に大きな影響を与えます。
この顧客対応の質を高めるためには、
- 社内業務をマーケティング対象として従業員満足度(ES)を高める
- 計画したマーケティング戦略への理解を促して全社横断的な協力体制を築く
の両方のインターナルマーケティングを実施することが重要になります。