ストラクチャー(Structure:業界構造)
ストラクチャーは、業界構造のことであり、
- 競合企業の数
- 製品の均質性
- 参入と退出のコスト
などが要素として挙げられます。(ジェイ・B・バーニー 著「企業戦略論 上 基本編」p116)
当サイトでは「Structure」を「産業構造」ではなく「業界構造」と訳しています(バーニー教授著「企業戦略論」の表現に準じています)。
理由は、産業構造は「国家における産業の構成比率や仕組み」を意味することが一般的だからです。
SCP理論では個々の産業や産業内の特定の業界について論じるため、「業界構造」の方がより適切な表現と考えます。
従来のSCP理論では、個々の企業は業界構造が持つ制約を受け入れることになり、それが企業行動を決定づけると考えました。
一方、ポーター教授は、業界構造を分析することによって、個々の企業が様々な行動が取れることを指し示しました。つまり、企業行動が業界構造を変化させる可能性を示したということです。
SCP理論とファイブフォース分析
1979年、マイケル・ポーター教授は、業界構造を分析するフレームワーク「ファイブフォース分析(Five forces analysis)」を発表しました。
ファイブフォース分析では、業界の収益性を低下させる5つの競争要因として、
- 業者間の敵対関係
- 売り手の交渉力
- 買い手の交渉力
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
を挙げています。
詳しくは以下の記事にまとめているので、ご覧ください。
これらの競争要因は「競争圧力」とも呼ばれ、競争圧力が高まれば業界が儲かりにくくなり、逆に競争圧力が弱まれば業界が儲かりやすくなることを説きました。
これを戦略グループ単位や個別企業で考えると、パフォーマンスを活かして競争圧力が働きにくいポジションを取れば、業界の競合他社を出し抜けるということです。
先ほどの腕時計の例で考えれば、
- 精巧に作り込まれた腕時計を職人がひとつひとつ手作りする
という戦略をとる企業は、
- 業界団体を発足させることで業者間の敵対関係を緩和する
- 腕時計職人の学校を運営して売り手の交渉力を低下させる
- 取扱販売店を限定することで買い手の交渉力を低下させる
- 業界団体による品質の認定制度を定めて新規参入の脅威を減らす
- ブランディングによって代替品の脅威を減らす
といった打ち手を検討することができます。
SCP理論まとめ
あらためて、SCP理論の要素の関係性を眺めてみると、逆転の発想をしたポーター教授の凄さがよくわかります。
ポーター教授は、
- 業界構造を分析し自社の競争環境を理解する(ファイブフォース分析)
- 業界の中でも魅力度の高い事業領域を選ぶ(戦略グループ、3つの基本戦略)
ことが重要だと説きます。
しかし、SCP理論だけで企業が儲かるわけではありません。
産業や業界を選ぶことによる企業の収益性に対する影響は、せいぜい19%程度と言われています(1997年、マクガハン&ポーターによる研究)。
言い換えれば、その企業が儲かるかどうかの理由の8割は、業界構造以外によって決まるということです。ファイブフォース分析によって儲かる業界を選んだからといって、過信することはできません。
これは冒頭で述べた従来のSCP理論の、
- 企業が儲かるかどうかは業界構造が決めてしまう
という考えを覆すものです。
だからこそ、企業自らが業界構造を変えうる戦略を打ち続ける、ということが大切なのかもしれませんね。