密度の経済とドミナント戦略(出店戦略)の違い
密度の経済の説明として、セブンイレブン等のドミナント戦略(特定エリアに集中して何店舗も出店する戦略、ドミナント方式、ドミナント出店、高密度多店舗出店戦略)が挙げられることがあります。
しかし結論から言えば、ドミナント出店戦略は「密度の経済」ではありません。
参考
出店の考え方 – ドミナント方式(高密度多店舗出店)株式会社セブンイレブン・ジャパン(インターネット・アーカイブ)
上記のセブンイレブン公式サイト(リンク先はインターネット・アーカイブ)では「ドミナント方式(高密度多店舗出店)」の効果として、
- チェーン認知度の向上
- 来店頻度の増加
- 物流効率の増加
- 加盟店様への経営アドバイス時間の確保
- 広告効率の向上
の5つの点を挙げています。
それぞれ、
- チェーン認知度の向上 → 単純接触効果(ザイアンス効果)
- 来店頻度の増加 → ハフモデル
- 物流効率の増加 → 規模の経済
- 加盟店様への経営アドバイス時間の確保 → 規模の経済、経験曲線効果
- 広告効率の向上 → 規模の経済
という理論で説明することができます。
一方で、密度の経済の定義である「人口密度が高いほどコストが下がる」という内容には関連づけられていません。つまり、密度の経済とドミナント出店戦略は別々の考え方なのです。
ここからは、ドミナント出店戦略のそれぞれの効果について、掘り下げてみましょう。
チェーン認知度の向上
「チェーン認知度の向上」は、「単純接触効果(別名、ザイアンス効果)」の影響になります。
単純接触効果(ザイアンス効果)とは、
- 繰り返し接することで好感度や印象が高まる効果
のことです。
ドミナント戦略を実施すると、地域住民は高い頻度でセブンイレブンの看板やロゴマークを目にすることになります。その結果、セブンイレブンの認知度が高まります。
しかしこれは密度の経済とは関係ありません。
例えば、電車の駅を降りるたびに「マクドナルド」や「吉野家」があれば、それらのチェーン店の認知が高まります。単純に接触回数の問題なので、店舗や人口が密集している必要はありません。
来店頻度の増加
「来店頻度の増加」は、「ハフモデル(Huff Model)」という理論で説明することができます。
ハフモデルとは、
- 売場面積が広い店舗の方が集客力が高い
- 顧客から近い店舗の方が集客力が高い
という集客力で商圏分析をするための理論です。
コンビニエンスストアの店舗面積は限られているため、ドミナント戦略では、
- 顧客と店舗の近さ
を最大限に高めることで、来店頻度の向上に貢献することになります。
こちらも密度の経済とは関係ありません。
人口密度の低い過疎地に出店する場合も、「売場面積の広さ」や「顧客からの近さ」は大きな武器になります。
物流効率の増加
「物流効率の増加」は、「規模の経済」で説明することができます。
規模の経済とは?具体例(お菓子工場)で簡単にわかりやすく解説【初心者向け】
規模の経済とは、
- 生産の規模が大きくなればなるほど製品1つあたりの平均コストが下がる
ことです。
同じ内容をドミナント戦略で言い換えれば、
- 店舗数の規模が大きくなればなるほど1店舗あたりの平均物流コストが下がる
ことになります。
具体的には、特定地域で店舗数の規模を高めると、
- 1つの物流センターがたくさんの店舗をカバーできる
- 1台の配送トラックがたくさんの店舗を回れる
ことによって、1店舗あたりの平均物流コストを下げることができます。
例えば、
- 1つの物流センターから5店舗に配送する場合
- 1つの物流センターから10店舗に配送する場合
では、1店舗あたりの物流センターの費用負担が半分になります。
また、
- 1台の配送トラックが5店舗に配送する場合
- 1台の配送トラックが10店舗に配送する場合
でも、1店舗あたりの配送トラックの費用負担が半分になります。
このように、特定地域において店舗数で規模を拡大すれば、「規模の経済」によって物流効率が向上してコスト削減につながります。
管理コストの抑制
セブンイレブンのホームページでは「加盟店様への経営アドバイス時間の確保」と書かれていますが、
- チェーン本部によるフランチャイズ店の管理コスト
のことを指しています。
これは先ほど説明した「規模の経済」による本部社員の移動コスト効率化に加えて、「経験曲線効果」の影響もあります。
経験曲線効果とは、
- ノウハウが蓄積されることで平均コストが下がる
効果のことです。
経験曲線効果とは?具体例と習熟率の計算方法:平均生産コストが下がる理由
特定地域にフランチャイズ加盟店の店舗が集中すると、短時間に複数の店舗を回ることができるようになります(配送トラックと同じ規模の経済)。
本部の担当者は同じような店舗の情報を効率よく手にすることで、ノウハウの蓄積が早くなり、その地域の店舗の経営改善を効率的に行うことができます(経験曲線効果)。
広告効率の向上
「広告効率の向上」も、「物流効率の増加」と同様に「規模の経済」で説明することができます。
広告効率が向上するというのは、
- 1つの広告で多くの宣伝効果が得られる
ということです。
例えば、
- ある地域でテレビコマーシャルを流した
とします。
その地域にセブンイレブンが1店舗しかなければ、1店舗分の広告効果です。しかし同じ地域に10店舗のセブンイレブンがあれば、1つのコマーシャルで10店舗分の広告効果が得られます。
仮にテレビコマーシャルを流すのに1回 50万円かかるとすれば、
- 地域に1店舗しかない:1店舗あたりの広告費 50万円
- 地域に10店舗ある:1店舗あたり 5万円
のように、1店舗あたりの広告費が10分の1まで下がります。
このように、チェーン店の規模が大きくなることで、1店舗あたりの広告費などのコストが下がる効果も「規模の経済」となります。
つまり、
- ドミナント出店戦略 = 密度の経済
ではなく、
- ドミナント出店戦略 = ザイアンス効果 + ハフモデル + 規模の経済 + 経験曲線効果
という、4つの理論モデルの組み合わせということになります。