バリューチェーン分析とは、マイケル・ポーター教授の価値連鎖(バリューチェーン)の考え方を元に、価値がどのように提供されるか自社と競合他社を比較する分析方法です。
バリューチェーン分析のやり方は、
- 業界や業態の標準的なバリューチェーンを決める
- バリューチェーンを表に書き出す
- 比較対象ごとに活動の具体例を洗い出す
- 洗い出した内容をグループ化する
- 重要な活動と競争優位を見つける
です。
ここでは上記の手順をわかりやすく説明します。またバリューチェーン分析用テンプレート(パワーポイント形式、登録不要)も無料でダウンロード可能です。
目次
バリューチェーン分析のやり方
バリューチェーン分析を行う前に知っておきたいのが、「価値連鎖の基本形」と呼ばれるフレームワークです。
バリューチェーン(価値連鎖)は、主活動と支援活動から構成され、マージンとして価値がどれだけ生み出されたかを考えるフレームワークです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

このバリューチェーンの考え方を、分析方法として落とし込んだのがバリューチェーン分析になります。
バリューチェーン分析の具体的事例
バリューチェーン分析とは、
同じ業界にいるのに、なんで競合はあんなに儲かってるんだろう…?
という時などに使えます。
バリューチェーン分析では、
- 業界の標準的なバリューチェーン
- 自社のバリューチェーン
- 競合他社のバリューチェーン
を比較することで、どんな活動が価値を生み出すのに重要なのかを分析します。
バリューチェーン分析では、先ほどの基本形の図とは違って、五角形の図形の連結で価値連鎖が表現されることが一般的です。
ここでは寿司屋の業界で事例を挙げてみます。
このように比較してみると、
- どの活動が価格を上げることのできる活動なのか
- どの活動がコストを下げることのできる活動なのか
- 顧客にとって重要な価値はどの活動で生まれているのか
を知ることができます。
さらに例を「回転寿司」の業態に絞って分析してみます。
先ほどの業態ごとの比較より、さらに違いがわかりやすくなりました。このバリューチェンの図は、さらに細かく分けたり、支援活動も加えたりすることで理解が深まります。
バリューチェーン分析の手順
バリューチェーン分析用テンプレートは、こちらからダウンロードできます。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
バリューチェーン分析用テンプレート(無料:パワーポイント形式)
まずは業界または業態の標準的なバリューチェーンを書いてみましょう。
バリューチェーンは、バリューチェーンの図の「主活動」をベースにします。
- 購買物流
- 製造
- 出荷物流
- マーケティング・販売
- サービス
このフレームワークは製造業寄りで書かれていますが、サービス業でも使うことができます。例えば人材派遣業であれば、
- 採用
- 育成
- 派遣
- マーケティング・営業
- アフターフォロー
というように読み替えることができます。
同じ業界でみんな似通っている場合は業界標準のバリューチェーンを、業界に様々な業態が存在している場合は業態のバリューチェンを書き出してください。そして書き出した中から、もっとも業界または業界を表していると思われるものを選んでください。
業界や業態でも広すぎる場合には、さらに狭い範囲のバリューチェーンを書くこともできます。商品やサービスごとにバリューチェーンが全く異なる場合は、商品カテゴリやサービスカテゴリごとのバリューチェーンを作成してください。
業界または業種の標準的なバリューチェーンが決まれば、それを表に書き出しましょう。
一人で分析する時は大きめのコピー用紙などに、複数人で分析する場合はホワイトボードか模造紙に書き出してみてください。
この表に付箋を貼り付けていくので、十分なスペースを確保しておいてください。
次にステップ1の標準的な流れを意識しつつ、具体的な活動内容を付箋で貼り出しましょう。ここでは、
- 価格を高めることにつながる具体例
- 活動コストを下げることにつながる具体例
を洗い出します。
ホワイトボードや模造紙に付箋を貼る時には、「価格を高めること」と「活動コストを下げること」で色を変えておくと分析がしやすくなります。
それぞれの主活動ごとの具体的な内容が洗い出せたら、内容をグループ化していきましょう。グループ化をする際には、不要なものを取り除いたり、似た内容のものをまとめたりしてください。そしてグループ化したものの中から、特に重要そうな内容を探しましょう。
最後にバリューチェーン全体を眺めながら、その業界または業態で価値を創造するために重要な活動を見つけましょう。重要な活動は1つだけではなく、複数あるかもしれません。
その上で、どの会社が他社と比べてどのような優位性を持っているのか考えてみましょう。また分析の結果から、自社が今後どのような活動を強化しなければならないのか書き出してみましょう。
バリューチェーン分析で出来ること出来ないこと
- 業界や業態の一般的な価値の作り方を知ること
- 競合他社と価値の生まれ方を比較すること
- 強化すべき活動を見つけること
- 内部環境の分析
- 重要な活動を他社が真似できるかどうかを判断すること
- 儲かる顧客層や業態を知ること
- 外部環境の分析
バリューチェーン分析では、商品やサービスの価値が生まれる活動を比較して、特定することができます。その業界や業態の一般的な価値の作り方を知ることで、自社の独自性を理解することができます。
また競合他社の価値の作り方を理解すれば、他社の優位性や弱点を知ることができます。それらを踏まえて、自社はどのような活動に投資をするべきか、あるいは経営資源を減らすべきか分析します。
一方でそれらの活動を他社が真似できるかどうかまでは、判断することができません。競合他社に簡単に真似をされてしまったら、せっかく活動を特定しても多少の時間稼ぎにしかなりません。
特定した活動に関連する経営資源が、強みなのかどうかはVRIO分析で知ることができます。

また、先ほどの寿司屋のバリューチェーンの比較では、ターゲット顧客がそれぞれ違うことがわかったと思います。
しかしバリューチェン分析自体は、どの顧客をターゲットにすれば儲かるのかは分析できません。業態についても、どの業態で参入すべきなのかも分析できません。
この問題については、同じポーター教授のファイブフォース分析などを活用することができます。

バリューチェーン分析の短所と分析のコツ
このフレームワークの短所としては、
- 分析対象の企業に外部にある資源の競争優位は考慮できない
- 外部環境の変化を考慮できない
- 自社内の価値のある活動が持続的なものなのかわからない
などが挙げられます。
バリューチェーン分析は、企業内での付加価値活動に焦点を当てているため、第三者が持つ外部の経営資源による価値の増加が考慮できません。
例えば産学連携に競争優位の源泉がある場合に、大学などの研究機関の持つ経営資源はバリューチェーンにハッキリと現れません。そのためポーター教授の考えを借りれば、クラスターなどの地理的に企業や様々なステークホルダーが集積の影響を考える視点も必要です。
同様に外部環境の変化に対しても、分析するための視点がありません。例えば法改正などで将来的に価値を生む活動ができなくなるとしても、バリューチェーン上では示されません。また競争圧力の変化についても、影響を測ることができません。そのためファイブフォース分析やPEST分析など、外部の動きを評価するための分析も必要になります。
バリューチェーンのそれぞれの活動は、経営資源を活用することで実現することができます。しかしその経営資源がいつまでも有効であるかは判断できません。例えば競合にとって模倣困難(真似することが難しい)であれば、競争での優位性が持続するかもしれません。そのためVRIO分析など、自社の経営資源を評価するための分析も必要になります。
以上コツをまとめると、
- クラスター(地理的な関係各社の集積)などの別の視点からも考える
- ファイブフォース分析やPEST分析で外部環境を分析しておく
- VRIO分析で重要な活動に関係する経営資源を分析しておく
ことが重要になります。
バリューチェーン分析の無料テンプレート
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- バリューチェーンの図(価値連鎖の基本形)
- バリューチェーン分析アイデア出し用テンプレート
- バリューチェーン分析プレゼン用テンプレート
が収録されています。