模倣を困難にする5つの要因
先ほどの2種類の模倣の形態では、
- 模倣にかかるコスト
が競争優位の「持続性」に影響を与えることを説明しました。
この「模倣にかかるコスト」が増える要因として、
- 時間圧縮の不経済:手に入れるために長い年月がかかる
- 経路依存性:過去の出来事の順序が経営資源の形成に影響している
- 因果関係不明性:どの経営資源の影響なのか誰もわからない
- 社会的複雑性:影響している要素が複雑すぎて真似できない
- 特許:法律によって守られていて真似できない
の5つがあると言われています。
この模倣のコストを押し上げる5つの要因があればあるほど、模倣は困難なものになります。
時間圧縮の不経済
時間圧縮の不経済とは、その企業が長い年月をかけて生み出した経営資源を手に入れるには、多くのコストがかかるということです。
例えば創業100年の企業の歴史的なブランド価値は、100年という時間がなければ手に入れることができません。また何十年もかけて世界中に張り巡らされた販売網なども、すぐに構築することができません。
いずれも模倣するために「時間」という要素を飛び越えなければ実現できず、全く同じものを手に入れるためには莫大なコストが必要になります。これは先に行動した企業が利益を得る、「先行優位性」にも関係しています。
こういった時間圧縮の不経済を模倣するには、同じような経営資源を持っている企業を「買う」ことや「提携する」ことで対応できることがあります。
歴史の長い企業を買収してブランド名だけを使用したり、世界的な販売網を持つ会社と提携することで、大きなコストをかけずに競争力を手に入れることも可能です。
経路依存性
経路依存性とは、その企業が辿った歴史の出来事の順序が、競争優位を形成しているという考え方です。
例えば、Cという経営資源は、Aという経営資源とBというい経営資源を持ってなければ生まれないような場合です。
つまり経営資源Cを手に入れるためには、その前に経営資源Aと経営資源Bを手に入れなければならないという「順番」が重要ということです。
Googleは検索エンジンで大きなシェアを取れたからこそ、そのあとにGoogle広告で莫大な利益をあげることができるようになりました。ダイソンは掃除機のための高性能の小型モーターを開発し、ブランドの認知度も高まったため、空気清浄機やドライヤーの市場に新規参入しても存在感を発揮することができました。
このように順を追って手に入れた経営資源は、完全に模倣することはほぼ不可能だと言えます。
因果関係不明性
因果関係不明性とは、企業の持つ競争優位性(結果)と経営資源(原因)の関係がはっきりと見えないような状態のことです。
因果関係とは、
- ある出来事が別の出来事を直接的に引き起こす関係
のことです。
そしてここでの「因果関係」とは、
- 原因:経営資源
- 結果:競争優位性(他社より優れている強み)
というように、その企業の経営資源を活用した結果として、競争優位性が生み出されているという関係を指しています。
例えば、単純に誰でも仕入れることができる商品を、そのまま売っているだけなのに、なぜか圧倒的な市場シェアを持っている場合を考えてみましょう。
何かしらの経営資源を活用しているからこそ、その会社は圧倒的な市場シェアを維持できているわけです。
しかし社内外の誰もその経営資源を認識できていなければ、競争優位性との因果関係が不明な経営資源だと言えます。
誰も認識できない要因としては、
- あたりまえすぎて社内の誰もが気づいていない
- なんとなく思い当たるけど正確に評価できていない
- 取るに足らないような小さな要素が大量に組み合わさっている
というようなことが考えられます。