間接的ネットワーク効果(外部性)の具体例
次に間接的ネットワーク効果について解説します。
典型的な間接的ネットワークのメカニズムは下図のとおり。
「グループAの利用者の数」の変化は「グループAの価値や効用」に直接的に作用しません。しかし「グループBの価値や効用」に作用することで、「グループBの利用者の数」の変化を促し、結果として間接的に「グループAの価値や効用」に影響を及ぼします。
このような間接的ネットワーク効果の難しさは、両方のグループの成長をいかにバランスよく持続させるかにあります。どちらかのグループの成長が早すぎても遅すぎてもサイクルが破綻する危険に晒されます。
以上は、相互に作用し合う例ですが、一方の価値や効用にしか影響を与えないシステムや、3つ以上のグループが複雑に作用し合うシステムも存在しています。
証券取引所のネットワーク効果
ここでは証券取引所を例に、間接的ネットワーク効果について説明します。
証券取引所は、株式や債権を売買する場所です。株や債券を「買いたい人」と「売りたい人」の2つのグループが存在しており、双方の数のバランスが適切であれば、円滑な取引が行われます。
「株式や債券を買いたい人」にとっては、「株式や債券を売りたい人」がたくさん存在することでより安く買える可能性が高まるので「株式や債券の買いやすさ」という効用が向上します。(売りたい人同士が競争して値が下がります。)
他方、「株式や債券を売りたい人」にとっては、「株式や債券を買いたい人」がたくさん存在することで高く売れる可能性が高まるので「株式や債券の売りやすさ」という効用が向上します。(買いたい人同士が競争して値が上がります。)
それぞれの効用が高まれば、さらに多くの「株式や債券を買いたい人」や「株式や債券を売りたい人」を惹きつけることになり、ネットワーク効果が一層強く働くことになります。
両面市場(two-sided markets、two-sided marketplace)
市場(しじょう)と名の付くものの多くは、間接的ネットワーク効果を有しています。マッチングサービスも市場の一種です。
ネットワーク効果の文脈では「両面市場(two-sided markets、two-sided marketplace)」などど呼ばれます。
一般的には「売り手(供給側)」と「買い手(需要側)」の2つのグループを集めることで、相互に影響し合い、間接的なネットワーク効果が生まれます。
- 青果市場:農作物の生産者(売り手)と卸や小売(買い手)
- 商店街・ショッピングモール:小売店(売り手)と来店客(買い手)
- クレジットカード:加盟店(売り手)とカード保有者(買い手)
- 労働市場:労働者(売り手)と雇用主(買い手)
- 広告市場:広告枠提供者(売り手)と広告出稿者(買い手)
- オークション:出品者(売り手)と入札参加者(買い手)
- フリーマーケット:出店者(売り手)と来場者(買い手)
- 賃貸物件仲介業:部屋の貸し手(売り手)と借り手(買い手)
- アプリケーションストア:アプリ開発者(売り手)とユーザー(買い手)
- ゲーム機:ゲーム開発者(売り手)とゲームプレイヤー(買い手)
などなど、具体例に事欠きません。
いずれの市場でも、双方のグループのボリュームの差が大きければ、売買が成立しにくくなり、価値や効用が低下します。
ちなみに、互いに「売り手(供給側)」且つ「買い手(需要側)」という両方の性質を持つ特殊な市場も存在しています。
例えば、結婚相談所は2つのグループ(多くの場合、男性と女性)がお互いがお互いの需要を満たす存在(供給)になります。
ツーサイド・プラットフォーム(two-sided platform)
ツーサイド・プラットフォーム(two-sided platform)とは、両面市場で価値を生み出す組織や仕組みそのものを指します。
例えば、ショッピングモールでは、ショッピングモールのデベロッパーおよび建物がツーサイド・プラットフォームです。
3者以上の場合には、
- マルチサイド・マーケット(多面市場、multi-sided markets)
- マルチサイド・プラットフォーム(multi-sided platform)
と呼ぶことになります。
3者以上の間接的ネットワーク効果
3者以上が関与する間接的ネットワーク効果は、ここまで紹介したような2者間のネットワークを複数組み合わせた場合が少なくありません。
例えば、インターネット検索エンジンのキーワード広告(検索キーワードに合わせた広告が検索結果に表示される仕組み)が3者間の間接的ネットワーク効果に該当します。
そもそもインターネットの検索エンジンは、
- インターネット上で検索されたいウェブサイト
- インターネット上で情報を検索したいユーザー
の2者の間接的ネットワーク効果が機能していると考えられます。
さらにそこにオークション形式で、
- インターネット上で広告を出稿したい事業者(広告出稿者)
を加えることで、
- インターネット上で情報を検索したいユーザー
の増加が広告出稿者にとっての価値になるサイクルを組み込みました。
言い換えれば、
- インターネット上で情報を検索したいユーザー
の存在は、
- インターネット上で検索されたいウェブサイト
- インターネット上で広告を出稿したい事業者(広告出稿者)
の2者に対する価値や効用を高めることになります。
マルチホーミング(multihoming)とマルチホーミング・コスト
マルチホーミングとは、利用者が複数の両面市場(または多面市場)を利用している状態のことです。
また複数の両面市場(または多面市場)を利用するためにかかるコストを、マルチホーミング・コストと呼びます。このマルチホーミングコストの存在が、プラットフォーマー同士の駆け引きの鍵となります。
例えば、多くの人が複数のクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済を利用していると思いますが、これがマルチホーミングの状態です。
消費者がキャッシュレス決済をマルチホーミングしやすい理由は、マルチホーミングコストが低いから。つまり、キャッシュレス決済手段の維持コスト(年会費など)が無料また少額であることが多く、コストを意識する必要性がないからです。
一方、加盟店にとって複数のキャッシュレス決済に対応するためには、機器の導入コストや手数料の増加など、マルチホーミングコストが多くかかります。
- 現金決済しか対応しない店
- クレジットカードのみ対応している店
- 電子マネーのみ対応している店
- 全てのキャッシュレス決済に対応する店
などに別れてしまうのは、マルチホーミングコストをどれだけ負担できるかが、お店によって異なるからです。
ちなみに混同されやすい用語として「スイッチングコスト」があります。
スイッチングコストとは、
- ある製品やサービスから別のものに切り替えるために必要な顧客の負担
のことで「あるものから別のものに替える」場合のコストです。
他方、マルチホーミングコストは「複数同時に」利用するためのコストなので、スイッチングコストと明確に区別されます。
マイナスのマルチホーミングコスト
資金が豊富にあるプラットフォーマーは、普及期にマルチホーミングコストをゼロまたはマイナスにする戦い方が可能になります。
近年の例では、QRコード決済のPayPayがリリース初期に、
- 加盟店の手数料を無料にする(コスト=ゼロ)
- 利用者に100億円をキャッシュバックする(コスト=マイナス100億円)
というキャンペーンを行いました。
その結果、スタートダッシュで他のQRコード決済サービスに大きく水をあけることに成功し、ツーサイド・プラットフォーマーとして大きなシェアを獲得することができました。