スノッブ効果とは
スノッブ効果(snob effects)とは、特定の商品やサービスが「利用者がとても少ない」と消費者に認識された場合に、消費者がその商品やサービスに魅力を感じたり関心を強めたりする認知バイアス(非合理的な心理現象)のことです。
わかりやすく言うと、
- 利用者が少ないほど魅力を感じてしまう
- みんなが利用していると魅力を感じなくなる
といった現象です。
- 限定販売の腕時計が気になってしょうがない
- 予約困難な旅館に泊まりたくなってしまう
- 通常メニューよりも1日10食限定の定食を選びたくなる
- メジャーデビューした歌手よりインディーズバンドの方が気になる
など、皆さんも思い当たる商品やサービスが存在するのではないでしょうか。
スノッブ効果と需要供給曲線の変化
スノッブ効果が起きると、需要と供給にどのような変化が生まれるでしょうか?
下図は、スノッブ効果によって変化する需要曲線「D2」と「D4」と、希少性を損なわないように調整される供給曲線「S2」と「S4」を表したものです。
「D2」が、消費者が「希少性を認識していない」状態で、「D4」が「とても希少だと思っている」「手に入りにくいと感じている」状態だとします。
希少性が高まって需要が「D4」になった場合は、一部の消費者しか利用できない価格「P4」を維持するために、供給量を供給曲線「S4」まで高めます。
逆に希少性が薄れて需要が「D2」に移動した場合は、市場に出回る数量を「Q4」から「Q2」に減らすように供給曲線を「S2」に動かせば、価格「P4」を維持することができます。その結果、スノッブ効果も維持することができます。
ポイントはバンドワゴン効果と同様に、
- 実際に希少であるかどうかは関係なく、希少に感じるだけで効果が現れる
ということ。
例えば、通常の商品のパッケージを少し変えたものを「限定品」として販売することで、スノッブ効果を生じさせて販売につなげることはよく見かけます。
飲料や食品ブランドが人気の漫画やアニメとコラボして、期間限定パッケージを販売してキャンペーン期間の需要を高めることなどが該当します。
また高級ブランドでは、効果な価格設定することで購入できる消費者の数を絞り、スノッブ効果を生じさせたりしています。
ちなみに高級ブランドで売られている商品は、必ずしも原価が高いから高価なわけではありません。有名な高級ブランドの洋服も、実際に地方の小さな縫製工場の職人の手で安価に作られていることも見受けられます。
希少性が毀損した場合のスノッブ効果の変化
もし、売り手が市場の飽和による需要曲線の変化に気づかなかった場合はどうなるでしょうか?
下図は、供給量の増加によって希少性が損なわれた場合を表しています。
仮に、価格「P4」で販売をしていた商品があり、人気が加熱して多くの消費者が商品を持ち歩くようになったとします。
みんなが持っていると感じた消費者は、スノッブ効果の影響でその商品に魅力を感じなくなり、需要が「D1」に変化します。
しかし売り手(メーカー)は市場に出回りすぎたことに気づかず「D4」の需要曲線に合わせた供給「S4」を行っていました。この場合、市場には「Q4」の個数の商品が出回っています。
しかし実際の消費者の需要は「D1」に変化していて、「P4」の価格なら「Q1」の数量に絞っていなければ希少性を感じません。つまり「Q1」と「Q4」の差が、超過した供給ということになります。
結果、商品自体は「P4」の価格で販売されていますが、消費者は「D1」と「S4」の交点となる「P1」相当の魅了しか感じず、商品が売れなくなってしまいます。
このような状況を避け、スノッブ効果を持続させるためには、売り手側が市場への供給量を細かくコントロールし、希少性を損なわないように調整し続けることが必要とされます。
バーバリーの失敗:1950〜1990年代のライセンス供与によるブランド毀損
ハーバードビジネススクールのケース教材「バーバリー」は、筆者の大学院時代の記憶に残っている授業の1つです。
バーバリーは1955年に大衆雑貨を扱う「グレート・ユニバーサル・ストアーズ」に買収され、幅広い商品にライセンス供与を行うようになりました。
その結果、バーバリーのブランドは家の壁紙から安価なチョコレートまであらゆるカテゴリーで展開されることになってしまいます。またライセンス管理が甘かったことから、製品の価格・デザイン・品質にばらつきが多くなり、大量に出回ってしまったことで高級感が損なわれることになりました。
その後、商品ラインを全て見直し、ブランドポートフォリオを刷新し、ライセンス製品を厳格に管理することでブランド力を取り戻します。
このケースで見られたライセンス供与によるバーバリーのブランドの毀損は、消費者がスノッブ効果を感じなくなったのも1つの理由だと考えられます。
スノッブ効果とオーダーメイド、セミオーダー、カスタマイズ性
スノッブ効果を需要と供給曲線で考えれば、究極の希少性は数量が「1」になること、つまり1点ものや完全オーダーメイドが最小数量となります。
これはワントゥワンマーケティングにつながる考え方でもあります。
しかし、何でも1点ものやフルオーダーだと売り手の生産効率は著しく低下します。
つまり事業としての規模の経済性や経験曲線効果が働きにくくなるということです。
売り手としては、スノッブ効果を維持しながらも、ある程度のボリューム感で数量を販売できなければ事業として成長が見込めません。
そこで便利なのが、セミオーダーやカスタマイズ要素です。
商品やサービスの基本部分は量産しますが、消費者の好みに応じて調整が可能な部分を用意しておけば、一部の製品ラインでスノッブ効果を生み出しながら、量産効果も得ることができます。
ヴェブレン効果とは
ヴェブレン効果(veblen effects、顕示効果)とは、自己顕示欲を満たすために、高級なものほど需要が増加する現象のことです。
またヴェブレン効果の生まれる消費財のことをヴェブレン財(veblen good)と呼びます。
ヴェブレン財は、購入者のステータスシンボルとなるため「高級なものを消費するほど自分のステータスが高い」という自己顕示欲を満たすために消費されます。
通常の商品やサービスは、価格が上がるほど需要は減少しますが、ヴェブレン財は逆に価格が上がるほど需要が増加します。
例えば、
- 給料が上がったので高級車を買った
- 見せびらかすために高級腕時計を身につけている
- 同期にマウントを取りたいので高級マンションを購入した
など、中途半端に値が張るものよりも、より高級なものが売れるのがヴェブレン効果です。
ビジネスでは、まったく売れなかった商品でも、マーケティング上の工夫と高額な価格設定によって急激に売り上げが伸びるケースがあります。
スノッブ効果とヴェブレン効果の関係
ヴェブレン財にはスノッブ効果が現れることが少なくありません。
高級だからこそ所有する消費者がが少なく、その希少性がスノッブ効果を維持する原動力となります。
3つの効果まとめ
今回は、
- バンドワゴン効果:人気が出るほど魅力が高まる現象
- スノッブ効果:希少なものほど魅力が高まる現象
- ヴェブレン効果:自己顕示欲を満足させられる高価なものほど需要が高まる現象
の3つについて解説しました。
いずれも、日常で誰もが経験するような現象なので、身の回りの出来事と結びつけてみると覚えやすいかも知れません。
ビジネスの場面でも「なぜあの商品は売れるのか」という疑問に対するヒントが得られる可能性があるので、ぜひ時々思い出してみてください。