マーケティングリサーチの流れと具体例
マーケティングリサーチは、
- 調査目的の明確化
- 調査計画の策定
- 情報の収集
- 情報の分析
- 調査結果の報告
- 意思決定
という流れで行われます。(「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 」第4章 p126 を参照)
ここでは具体例として、架空の「老舗ラーメン屋」を題材に考えてみたいと思います。(記事「コアコンピタンス分析のやり方:事業を生み出す技術力を見つける方法」と同じ設定です。)
その老舗ラーメン店は、
- 常連客の来店頻度が落ちてきて売り上げが横ばいになっている
という問題を抱えていたとします。
その問題を解決するために、マーケティングリサーチを行うことにしました。
ここからは、あなたが調査員兼スタッフとして、老舗ラーメン店を調査するという設定で話を進めていきます。
まずは調査目的を明確にしましょう。
老舗ラーメン店の店長が抱えている問題は、売り上げが伸び悩んでいることであり、常連客の来店頻度が減っていることに気づいています。
あなたは店長にお願いして、何人かの常連客に「お客さんお久しぶり。最近どうしてるの?」と話を振って、来店頻度が落ちている理由をそれとなく聞いてみることをお願いしました。
その結果、
- 健康診断で引っかかって塩分や脂分を気にしている
- 体重が増えてきたのでカロリーが気になっている
などの「健康に関する理由」が一番多いということがわかりました。
しかし現在のメニューにはヘルシーなものがないので、
- ヘルシーな新メニューを提供すれば客足が戻るのでは?
という「仮説」を立てました。
そして最終的に、今回のマーケティングリサーチの目的を、
- どのような常連客が来店頻度を落としているのか把握する
- 常連客の持っている問題を解決する新メニューを開発する
- 新メニューが常連客の来店頻度を改善できるか確認する
の3つに決定しました。
調査計画では、決定した調査目的を果たすために、どのような調査方法を選ぶかを考えます。色々な調査方法を闇雲に試しても無駄が多いので、目的と予算に合った調査方法に絞って実施します。
調査の情報源としては、
- 1次データ:自分たちで独自に集めた情報
- 2次データ:官公庁や調査機関などが提供している既存情報
などがあります。
詳しい違いや具体例については、こちらの記事をご覧ください。
1次データと2次データの違いとは?マーケティングリサーチの情報源
また調査方法は、
- 質問法:調査対象に質問することで情報を集める
- 観察法:調査対象の行動や反応を観察することで情報を集める
- 実験法:実験によって特定の因果関係を調べる
- フォーカスグループ:調査対象を数人集めて討論させて情報を引き出す
- 行動データ:調査対象の購買記録や行動に関する情報を集める
の5つの方法があります。
マーケティングリサーチの5つの方法:質問法・観察法・実験法・フォーカスグループ・行動データ
老舗ラーメン店の店長とあなたは、お店の切り盛りをしながらマーケティング調査をしようと考えたので、情報源として「1次データ」をメインに収集することにしました。
また1次データの調査方法としては、
- どのような常連客か? → 観察法・行動データ
- 問題を解決する新メニューは何か? → 質問法・観察法
- 来店頻度を改善できるか? → 実験法・行動データ
を実施することにしました。
このステップからは、実際に情報の収集を行います。
まずは1つ目の調査目的である、
- どのような常連客の来店頻度が減っているのか
という調査です。ここでは「観察法」と「行動データ」で調査を行います。
この調査をする前に誰を「常連客」とするか条件を定義する必要があります。
あなたは今回の調査対象となる「常連客」を、
- スタンプカードを3回以上押している顧客
と定義することにしました。
RFM分析とは?Excelで新規客・常連客・離反客・一時客を分類する方法
そして会計時に行動データ調査として、
- スタンプカードを3回以上押している顧客
- 前回の来店から1ヶ月以上経っている顧客
をチェックして「来店回数が減っている常連客」と定義し、
- 常連客の残したラーメンの量
- 常連客の大まかな年齢
- 常連客の体型
を観察法で調査して記録をとりました。
次に2つ目の調査目的の、
- 常連客の問題(健康管理)を解決する新メニュー
を調査します。
あなたは店長にお願いして、
- 麺を糸こんにゃくにした「低カロリーラーメン」
- 量を半分に減らした「ミニラーメン」
- 麺を減らして野菜を大量に入れた「ベジラーメン」
の3つの新メニューを開発してもらいました。
そして店長と一緒に、
- 常連客にどれが気になるか聞いて試食してもらう(質問法)
- 食べる様子を観察する(観察法)
- 食べた感想を聞く(質問法)
などの調査を実施しました。
そして3つ目の調査目的の、
- 新メニューが常連客の来店頻度を改善するかどうか
も調査します。
新メニューを食べてもらった常連客に対して、次回も要望があれば新メニューを注文できることを伝えて、
- 次回来店時にどのメニューを注文したか(観察法)
- 来店間隔が以前より短くなったか(行動データ)
についても確認して記録を残しました。
一定の調査期間を設けた後は、情報の分析を行います。
収集した情報ごとに、あなたが分析を行った結果、
- 1つ目の調査:どのような常連客の来店頻度が減っているのか
- ラーメンはスープまで完食する
- 年齢は40代以上であまり若くはない
- どちらかというとメタボ気味が多い印象
- 2つ目の調査:問題(健康管理)を解決する新メニュー
- 8割以上の常連客が麺が少なく野菜の多い「ベジラーメン」を選択
- 「低カロリーラーメン」は美味しくないと不評でスープも残る
- 「ミニラーメン」は完食するが物足りないという感想
- 「ベジラーメン」は完食した上に味もボリュームも好評
- 3つ目の調査:新メニューが常連客の来店頻度を改善するかどうか
- 再来店時には新メニューではなく通常メニューをを選ぶ常連客が7割
- 半数近くが以前より短い期間で再来店した
ということがわかりました。
この調査結果から、
- 40代以上の健康を気にするメタボ気味の常連客は、ラーメンを完食することと、健康への配慮を両立させるために来店頻度を減らしていた。そのため本来のラーメンの満足感を得られない「低カロリーラーメン」や「ミニラーメン」では満足度が低い一方で、「ベジラーメン」は常連客の「健康に配慮したい」という欲求を充しながらも、満足感も得られるため好評だった。そして健康に配慮したラーメンを食べたという安心感から、再来店までの間隔が短くなった。また「前回はヘルシーなラーメンを食べた」という事実から、再来店時には通常のラーメンを注文する傾向が高くなった。
ということを結論づけ、
- ヘルシーな新メニューを提供すれば客足が戻る
という仮説に対して、高い可能性があることを検証できました。
分析の結果がまとまったら、調査結果の報告を行います。通常の会社であれば、上長や経営陣に対して調査結果をプレゼンテーションします。
老舗ラーメン店の例では、あなたは先ほどの調査の結論を店長に報告して、仮説を支持する調査結果が得られたことを伝えます。
最後は意思決定です。調査結果を受けて、いつ誰が何をどう実行するのかを決定します。
老舗ラーメン店の店長に調査結果を伝えたあなたは、公式に「ベジラーメン」を新メニューとして加えるかどうかの判断を促します。
以上が、マーケティングリサーチの一連の流れとなります。