金銭的コスト
金銭的コストとは、別の製品やサービスに切り替える際に必要になる金銭的な負担のことです。
英語では「Financial Switching Costs(ファイナンシャル・スイッチング・コスト、金銭的切り替え費用)」と呼ばれます。
金銭的コストは、最も認識しやすく、最も排除しやすいスイッチンングコストです。
顧客にとっては金額とし数値で示されるので、負担の大きさを金額で認識できます。そして金銭的コストを誰かが負担したり、切り替えることで同額以上の対価が得られれば、金銭的コストは排除されます。
金銭的コストを高める方法
売り手側が顧客を囲い込むために金銭的コストを高める方法としては、
- 転用できない費用を発生させる
- 顧客に得をしていると思い込ませる
などの方法があります。
転用できない費用
まず転用できない費用についてですが、別のものに切り替えた場合に、それまで支払った費用の価値がなくなるような費用のことです。これは「サンクコスト(埋没費用)」とも呼ばれ、回収することができない費用になります。
具体的には、
- 入会金
- 退会手数料
- 契約手数料
- 契約解除料
- 専用の備品の購入費用
などが該当します。
先ほどのスポーツジムの例では、それまで通っていたジムの入会金は、新しく通う別のジムの入会金に充てることができません。
他にも、何かのサービスを受けるために、専用の機械などを買わなければならない場合も該当します。
このように切り替えることで顧客がそれまで支払った費用が完全に無駄になってしまう状況を作れば、スイッチングコストを高めることができます。
得をしていると思い込ませる
もう一つの方法は、顧客に金銭的に「得をしている」と思い込ませることで、切り替えた時に「損をした」と感じさせることです。
具体例としては、
- 長期契約割引
- ポイントプログラム
などが該当します。
どんな顧客でも、
- 目先の損失 > 将来の利益
と考えてしまう心理を持っているので、
- スイッチングする = 損をする
という構図を組み立てると、スイッチングコストが高まります。
他社に切り替えることで、これまでの契約期間で積み重ねた割引がリセットされてしまったり、これまでためてきたポイントが無効になってしまうことがわかれば、顧客はスイッチングを思いとどまるかもしれません。
そのためには、先に「得をしている」と顧客に思わせる施策が必要になります。その代表例が、先ほど挙げた長期契約割引やポイントプログラムです。
ここで重要なのは「得をしていると思わせる」ということです。そのために売り手側は、必ずしも自分たちの利益を削る必要はありません。
例えば、
- 長期契約割引の割引分を標準料金に初めから上乗せしておく
- ポイント割引の原資は取引先から徴収しておく
などの方法があります。
つまり標準価格を割引前提で設定しておけば、割引しても売り手側が損をすることはありません。しかし顧客は「得をした」と思い込みます。
また顧客にポイントを渡すとしても、それを取引先に負担させておけば売り手が損することはありません。その一方で、ポイントを受け取った顧客は「得をした」と思い込みます。
本来はポイント分を仕入れ値に反映させておけば、初めから安い値段で顧客が購入することができます。しかしその値引き分の一部を「ポイント」として顧客に渡せば、「得をした」と錯覚させることが可能です。
典型的な例としては、楽天市場の加盟店があります。顧客が受け取るポイントは、楽天の加盟店が負担をしているので、楽天自体には損失はありません。
他にもクレジットカードや電子マネーのポイント還元も、運営会社が加盟店から徴収した決済手数料を原資としています。
金銭的コストを取り除く方法
競合他社から顧客を奪うことを考えた場合、金銭的コストは比較的対応がしやすいコストだと言えます。
顧客の金銭的コストを取り除くためには、
- 金銭的コストと同額の割引を行う
ということで対応できます。
先ほどのスポーツジムで例を挙げると、
- 入会金を免除する
- 初月の会費を無料にする
などが該当します。
これは実際によく見かけますよね。入会金を無料にすることで、初めてのお客さんにとっては囲い込まれるハードルが下がりますし、他のジムに通っているお客さんにとっては切り替え時のスイッチングコストが下がります。
また「初月会費が無料」を「それまで通っていたスポーツジムの月会費」と考えれば、スポーツジムを切り替える月の金銭的コストが無くなります。
このように切り替え時に顧客が負担せざるを得ない金銭的コストを、顧客を奪いたい側が負担することで、スイッチングを促すことができます。