客単価が上がる場合のLTVの計算方法
ここまででご紹介した2つのLTV計算式では、客単価は一定であることを前提に計算していました。しかし客単価は、常に一定であるとは限りません。
例えばスポーツ用品などでは、初心者は比較的安価な商品を購入しますが、スポーツが上達するにつれて高い機能で品質の高い商品に買い換えていきます。また美容関係の商品も試してみて効果があれば、再購入時に同じブランドの他の商品も合わせ買いするようになります。
このような施策をマーケティング用語では、
- アップセル:顧客に上位の商品をすすめること
- クロスセル:顧客に関連する商品をすすめること
と呼びます。
このように顧客との付き合いが継続することでアップセルやクロスセルが発生する場合には、
- LTV = 初回販売の利益 + 2回目の利益の現在価値 +…
というように、毎年発生する利益を個別に計算する必要があります。
この場合は個別に「現在価値」を計算して合算するだけですが、初回販売は赤字覚悟で商品やサービスを提供するような場合(無料体験など)は、「NPV(正味現在価値)」の考え方が参考になります。
例えば、ある登山用品専門店が登山初心者の顧客を獲得した場合、
- 1年目の顧客一人あたりの利益:30,000円(登山初心者)
- 2年目の顧客一人あたりの利益:50,000円(登山中級者)
- 3年目の顧客一人あたりの利益:70,000円(登山上級者)
- 店長の期待収益率(=割引率):10%
というように、確実に3年間の利益が見込めたとします。顧客の登山スキルの向上に合わせて、店長がより高機能の商品のアップセルや、登山ツアーの斡旋などのクロスセルを行うイメージです。
この場合には、
- 1年目の利益の現在価値 = 30000 ÷(1 + 0.1)^1 = 27272.7273…
- 2年目の利益の現在価値 = 50000 ÷(1 + 0.1)^2 = 41322.3140…
- 3年目の利益の現在価値 = 70000 ÷(1 + 0.1)^3 = 52592.0361…
となって、これらを合計すると、
- LTV = 121187.0774…
ということで、LTVが12万円あまりということがわかります。
つまりこの登山用品専門店の店長は、お店の熱心なファンを生み出すために、イベント開催やインターネットでの情報発信などで新規顧客あたり12万円まで投資できると考えることができます。
LTVについてネットで検索してみると、
- LTV = 客単価 × 購買頻度 × 利用期間 − 新規顧客獲得コスト
という「現在価値」を考慮しない説明しかなくて驚きました。
例えば先ほどの登山用品専門店の例のような
- 1年目の利益:3万円、2年目の利益:5万円、3年目の利益:7万円
というように徐々に利益が増えるLTVのパターンと、
- 1年目の利益:7万円、2年目の利益:5万円、3年目の利益:3万円
という徐々に利益が減るLTVのパターンは、現在価値を考えなければ両方ともLTVが同じ15万円です。
しかし現在価値を考慮してLTVを計算すると、
- 徐々に増えるパターンの現在価値 = 121187.0774…
- 徐々に減るパターンの現在価値 = 127498.1217…
となって、徐々に減るパターンの方がLTVが6,000円も高くなります。