アンゾフのマトリクスは、「アンゾフ・マトリックス」「アンゾフの成長マトリックス」「アンゾフの成長ベクトル」「アンゾフの事業拡大マトリクス」などとも呼ばれ、
- 市場浸透戦略
- 市場開拓戦略
- 製品開発戦略
- 垂直多角化戦略
- 水平多角化戦略
- 外側多角化戦略
の6種類の事業拡大戦略を検討することができます。
アンゾフのマトリクスの使い方は、
- 市場ニーズ調査の結果を整理する
- 戦略立案メンバーを集める
- 戦略のアイデアを出し合う
- アイデアを整理する
です。
ここでは、それぞれの手順についてわかりやすく解説します。またテンプレート(パワーポイント形式)も無料でダウンロード可能です。
目次
アンゾフのマトリクスの使い方
アンゾフのマトリクス(アンゾフの成長マトリクス)は、正式には「製品市場戦略マトリクス」と呼ばれています。
新しい市場を開拓する製品を考えろって言われたけど、困ったな…。
という時など使えるフレームワークです。
「製品市場戦略マトリクス(アンゾフのマトリクス)」を使ってアイデア出しを行えば、上司や経営陣に6種類の戦略の方向性を提案することができます。
こちらがその製品市場戦略マトリクスです。
左上に「アレンジ版」と書いているのは、筆者が現代風に手を加えているため。1957年のオリジナル版だと用途が限られていて、とっても使いにくいのです。
オリジナル版が作られた時代は製造業が中心で、フレームワーク自体も製造業に特化したものでした。ここでのアレンジ版は製造業以外にも使えるようにしながらも、アンゾフ教授の意図を損なわないように編集しています。ちなみにオリジナル版は、こちらの記事から確認いただけます。

ここで使う製品市場戦略マトリクスのテンプレートは、こちらからダウンロードできます。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
アンゾフのマトリクスのテンプレート(無料:パワーポイント形式)
横軸の新しいニーズを検討するためには、まだ対応できていない市場ニーズの一覧が必要です。事前のマーケティング調査やアンケート調査の結果を整理して、製品市場戦略マトリクスで使えるように準備をしておきましょう。

加えて、会社の理念やミッション(使命)への近さで順位付けすれば、アイデア出しの優先度も決めやすくなります。
経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)の決め方については、こちらの記事も参考にしてください。

戦略立案のメンバーは、自社の経営資源をある程度把握している必要があります。使える経営資源を知っていれば、新しい商品やサービスのアイデアも湧きやすくなります。
ただし必ずしもベストメンバーが集まれるとも限りません。状況に応じて、集めるメンバーを決めましょう。
- 現実的に6戦略の全てを検討したい → 経営資源を把握しているメンバーを複数人集める
- 会議のネタやアイデアレベルでOK → ひとりまたは集まれる人のみ
もし自社の経営資源を具体的に把握していないメンバーが多く集まる時には、そのメンバーで事前にVRIO分析を行うと理解が深まります。

製品市場戦略マトリクスを、そのままアイデア出しに使うことはできません。それぞれの戦略を個別に検討する必要があります。
- 市場浸透戦略 → 一般的なマーケティングの会議を行う
- 製品開発戦略 → 対応中の市場ニーズを1つずつ検討する
- 市場開拓戦略 → 既存商品を市場ニーズに合わせた訴求方法を考える
- 垂直多角化戦略 → 内製化やM&Aの検討会議を行う
- 水平多角化戦略 → 未対応の市場ニーズを解決する方法と実現する手段を考える
- 外側多角化戦略 → 会社の理念や経営者の好みにあった事業の情報収集をする
市場浸透戦略は一般的なマーケティング戦略を練ることになるので、こちらでの説明は割愛します。
製品開発戦略や市場開拓戦略を行う場合は、現在の経営資源で「開発力に余裕がある」のか「営業力に余裕がある」のかで順番を決めます。
- 開発力に余裕がある → 製品開発戦略から検討する
- 営業力に余裕がある → 市場開拓戦略から検討する
アイデア出しでは、ホワイトボードや模造紙に付箋を貼っていきましょう。
製品開発戦略では、現在の商品やサービスがターゲットとしている市場ニーズを書き出し、それに対するアイデア出しをしていきましょう。

市場開拓戦略では、まず現在の商品やサービスと対応している市場ニーズを書き出します。そして未対応のニーズを会社の理念やミッションに近い順に上から列挙し、どのように訴求を行うかアイデアを出します。
水平多角化戦略は、製品開発戦略も市場開拓戦略もやり尽くしている場合に行います。未対応の市場ニーズを会社の理念やミッションを達成しやすい順に上から列挙し、それに対する解決方法のアイデアを洗い出します。そして最後に、その解決方法を実現できる商品やサービスのアイデアを出します。
アイデアがで尽くしたら、メンバーでアイデアを整理しましょう。
- 貼り付けた付箋をグループ化する
- グループ化したアイデアで実現性の優先度をつける
これらの作業ができたら、パワーポイントのスライドや書類にまとめます。まとめる場合には、次の内容を含めるようにしましょう。
- 会社の理念やミッション
- 戦略名
- 対応する市場ニーズ
- 具体的な商品やサービスの内容
- 戦略実行に必要な経営資源
アンゾフのマトリクスで多角化戦略を検討する目安
アンゾフの成長マトリクスでは6つも戦略があるんですが、会社の規模や立場によって全部使えないかもしれません。
あくまで目安ですが、
- あなたが社長や個人事業主 → 6つ全て検討可能
- 部長だけど社長の肝いり企画 → 6つ全て検討可能
- 上司から急に言われただけ → 3つの事業戦略を本気で考えて、多角化戦略は1つだけネタとして考える
あたりが現実的なのではないでしょうか。
アンゾフのマトリクスの出来ること出来ないこと
- 6種類の事業展開の方向性を考えること
- すでに発見している顧客のニーズに対応すること
- 6種類の事業展開のどれが優れているか判断すること
- 新たな顧客のニーズを発見すること
このフレームワークで出てくるのは、あくまで戦略のたたき台のようなものです。そこで出てきたアイデアを現実的に、実行できる形に落とし込むのは別の話。その戦略が良いのか悪いのか、実行可能なのかどうなのか、そのような判断まではできません。
またこのフレームワークだけでは、事前にわかっている顧客のニーズを検討することしかできません。新たな顧客のニーズを発見するのには向いていません。
アンゾフのマトリクスの短所と使い方のコツ
製品市場戦略マトリクス(アンゾフのマトリクス)の短所は、
- 2軸を大雑把に設定するとアイデアがまとまらない
- 商品点数が数千〜数万などの多い事業では作業が膨大になる
- 経営資源の評価ができない
「商品・サービス」と「市場ニーズ」の2つの軸については、大雑把に設定してしまうと、その後のアイデア出しでもアイデアの品質が大きくばらつきます。それを避けるためには、戦略立案のメンバーが事前に自社の取り扱う商品やサービスを理解し、マーケティング調査から未対応の市場ニーズを洗い出すことが大切です。
また「商品・サービス」は会社によって取り扱う点数が違いますが、あまりにもたくさんの商品を扱っている場合は、ある程度まとめるか絞り込むことをお勧めします。
このフレームワークでは経営資源の知識が必要なものの、それを把握・評価するプロセスはありません。そのため事前にVRIO分析など、経営資源を評価する別の分析を行うと良いでしょう。
以上、使い方のコツとしては、
- 事前に自社の取り扱う商品やサービスの理解を深める
- 事前にマーケティング調査を行い市場ニーズを拾っておく
- 「商品・サービス」軸の細かさは処理が可能な程度にとどめる
- VRIO分析などで事前に戦略に使える経営資源を知っておく
ことです。
アンゾフのマトリクスの無料テンプレート
アンゾフのマトリクスのテンプレートは、こちらからダウンロードできます。登録不要でご利用いただけます(メールアドレスなど不要)。
アンゾフのマトリクスのテンプレート(無料:パワーポイント形式)
- 製品市場戦略マトリクス
- アレンジ版製品市場戦略マトリクス
- 製品開発戦略用テンプレート
- 市場開拓戦略用テンプレート
- 水平多角化戦略用テンプレート
が収録されています。
関連書籍
戦略論 1957-1993 (HARVARD BUSINESS PRESS)