ターゲット市場の5つの評価基準
ターゲットとする市場セグメントは、
- 測定可能性:市場の規模を測れること
- 接近可能性:市場にアプローチできること
- 差別化可能性:市場から独自の反応が返ってくること
- 利益確保可能性:市場から十分な利益を見込めること
- 実行可能性:現実的なマーケティング施策を設計できること
という5つの条件を満たす必要があるとされています。(「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 」p326)
これはセグメンテーションの段階では満たす必要はありませんが、ターゲティング(市場セグメントの選択)の対象として検討するのであれば必須です。
測定可能性:市場の規模を測れること = Response
市場セグメントは、
- どれくらいの消費者が存在しているのか?
- どれくらいの売上を見込むことができるのか?
- 市場セグメントは拡大しているのか縮小しているのか?
などを数値として測れる必要があります。
数値は予測レベルでも問題ありませんが、精度の高い数値が得られるほど、マーケティング活動の精度も高まります。
これは「Response(レスポンス)」などとも呼ばれます。
市場の規模を測ることができれば、マーケティング活動の成果を確認しやすくなります。また、拡大市場なのか縮小市場なのか知ることで、参入するかどうかの判断をすることもできます。
接近可能性:市場にアプローチできること = Reach
どんなに有望な市場セグメントを見つけたとしても、消費者に製品やサービスを届ける方法がなければ絵に描いた餅になってしまいます。
マーケティングでは消費者に価値を届けなければならないので、直接的でも間接的でもアプローチができなければ活動そのものが成り立ちません。
これは「確実性」「到達可能性」「Reach(リーチ)」などとも呼ばれます。
この市場へのアプローチについては、
- 消費者(買い手)
- 提供者(売り手)
の2つの側面から考える必要があります。
例えば、インターネットにアクセスできない消費者に、インターネット上のサービスを提供することはできません。
たとえ自分たち(売り手)がそのサービスを提供するのに十分な技術力があったとしても、買い手である消費者が価値を受け取れなければビジネスが成立しません。
逆に、買い手が存在しても提供できない場合もあります。例えば、職業を紹介してもらいたい人が居たとして、あなたが職業紹介のビジネスをしようと思っても、「有料職業紹介事業」の許可を取っていなければ商売ができません。
このように売り手または買い手の、どちらか一方に問題があれば市場へのアプローチが困難になることがあります。
他にも、法律が整備されていなかったり、宗教上の問題があったり、社会通念上の課題が払拭できない場合にも市場にアプローチできないことが考えられます。
これらの状況を整理するには、「PEST(ペスト)分析」というフレームワークが有効です。
PEST分析では、
- 政治的要因(Political factors)
- 経済的要因(Economic factors)
- 社会的要因(Social factors)
- 技術的要因(Technological factors)
という4つの要因からビジネスへの影響を考えます。
有望な市場セグメントが見つかったら、PEST分析で市場へのアプローチに課題がないか確認してみましょう。
差別化可能性:市場から独自の反応が返ってくること
ターゲティングは、セグメンテーションの結果を引き継いで行うことになります。
もしセグメンテーションが成功していれば、それぞれの市場セグメントごとに独自の反応が返ってくるはずです。
なぜなら、それぞれの市場セグメントごとに独自のニーズやウォンツを持っているからです。
以下の図は、セグメンテーションの成功例と失敗例のイメージですが、成功したセグメンテーションでは、市場セグメントが明確なニーズやウォンツを持っています。
この市場セグメントの持つ特定のニーズやウォンツが、マーケティング戦略に呼応することを「独自性」などと呼びます。
うまくセグメンテーションができていれば、市場セグメントごとに消費者のリアクションが違うので、それぞれに対して違うマーケティング施策を考える必要があります。
逆に、異なる複数の市場セグメントから同じ反応が返ってくるようであれば、セグメンテーションに失敗している可能性があります。
そういった場合は、セグメンテーションのやり直しが必要です。
利益確保可能性:市場から十分な利益を見込めること = Realistic Scale
ビジネスにおいて最も重要な要素の一つが「利益」です。
いくら売上があったとしても、利益が生まれなければマーケティング活動を持続させることはできません。そのため、利益が見込める市場セグメントにアプローチする必要があります。
これは「維持可能性」「Realistic Scale(リアリスティック・スケール)」などとも呼ばれます。
既存の市場セグメントであれば、利益を見込めるかどうかの判断はしやすいかもしれません。しかし、新しい市場セグメントでは正確な利益率まで見込むことは難しいことがあります。
それでも1つ目の「市場の規模を測れる」という条件をクリアしていれば、マーケティング活動がプラスになるかマイナスになるかの判断はつくはずです。
さらに欲を言えば、継続的な活動で将来的に利益が拡大するのか縮小するのかも把握しておきたいところです。
実際のビジネスでは、市場セグメントから十分な利益を見込めなくても、あえて市場に参入する場合もあります。
その理由は
- 創業者の想いを叶えるため
- 経営理念を実現させるため
- 経営者のちょっとした気まぐれ
など様々。
そして新たなビジネスチャンスを生み出すことだってあります。とてもレアなケースですが、創業者や経営者の情熱があれば、利益度外視で取り組むこともあります。
実行可能性:マーケティング施策を設計できること
どんなに理想的な市場セグメントが見つかったとしても、現実的なマーケティング施策の設計ができなければ意味がありません。
つまり、マーケティング戦略が絵に描いた餅になりそうな市場セグメントは選ぶべきではないということです。
マーケティングミックス(4P)である、
- Product(製品)
- Price(価格)
- Place(流通)
- Promotion(販売促進)
の4つは互いに影響し合っていて、マーケティング戦略では一つとして欠けることはできません。
そのため、
- 製品開発が技術的に難しい
- 現状ではコストがかかりすぎて現実的な値付けができない
- 製品を流通させる手段がなかったり流通コストが非現実的である
- 製品の販促活動が法的に難しい
などといった問題があり、マーケティングミックス(4P)が成立しない場合には、問題が解決するまでターゲティングの対象にはなりません。