ターゲティング戦略その1:単一セグメントへの集中戦略 = 集中型ターゲティング戦略
まずは、単一の製品を単一の市場セグメントにぶつける「単一セグメントへの集中戦略」です。
単一セグメントへの集中戦略のメリットは、
- 分野を特化させることでマーケティング活動を効率的に行える
- 市場セグメントでトップシェアになれば収益率が高まる
ことにあります。
例えば創業して間もない企業では、扱う製品が少なく、予算も少ないことがほとんどです。
このような場合には、限られた予算を効率的に使うため単一の市場セグメントに注力します。
そうすれば特定の市場セグメントに対する学習効率も向上し、結果としてマーケティング活動全体が効率化されます。
また特定の市場セグメントで圧倒的なシェアを得ることができれば、
- マーケティングコストの低減
- ブランド価値向上による売価の安定
などによって収益性も向上します。
これはアンゾフ・マトリックスにおける「市場浸透戦略」とも考え方が似ています。
市場浸透戦略は、
- 既存市場で既存製品を浸透させて売上向上や新規開拓を狙う戦略
のことで、経営資源を既存製品に集中させることで、マーケティング活動を効率化し、収益率を向上させる戦略です。
この「単一セグメントへの集中戦略」と同じような考え方を持つのが、コトラー教授の「集中型ターゲティング戦略」です。
集中型ターゲティング戦略も同様に、
- 特定の市場セグメントを標的にする
- マーケティングミックス(4P)を特定の市場セグメントに最適化する
といった事を行います。
これらのターゲティング戦略は、ポーター教授の「集中戦略(差別化集中戦略・コスト集中戦略)」とも同じ考え方です。
集中戦略は、経営資源が限られている場合に有効な戦略であり、ニッチ市場(隙間市場)でのコスト優位性を生み出します。
ちなみにコトラー教授は、「競争地位の4類型」でもニッチ市場を狙う場合のニッチ戦略も提唱しています。
ニッチ市場は、大企業に比べて経営資源の量が少なくても、尖った技術や強みなど経営資源の質が高い部分があれば、勝つチャンスがある市場です。
しかしここまで説明したように、単一の市場セグメントに集中することには、マーケティング効率が良くなる反面、
- その特定の市場セグメントに大きな変化があった場合に売上が激減する可能性
- 別の企業のイノベーションによって市場セグメントが消滅する可能性
- 大手企業の参入によって一気に形勢が逆転してしまう可能性
など、一つの市場セグメントに依存するデメリットもあります。
代表的な例が、ポラロイド社が開発販売していた「ポラロイド」と呼ばれるインスタントカメラです。
ポラロイドカメラで写真を撮影すると、拡散転写法によって撮ったその場で写真が確認できます。日本では富士フイルムの「インスタックス・チェキ」が有名ですよね。
ポラロイドカメラは1990年代には、拡散転写法のインスタントカメラでは市場の7〜8割を独占するほど大成功を納めていました。
しかし2000年代に入ると、デジタルカメラが急速に普及して瞬く間に売上が激減。
そして2001年に約1000億円の巨額の負債を抱えて、ポラロイド社は経営破綻しました。
このようなリスクに対して、コトラー教授は、単一の市場セグメントに長期間依存するのではなく、早い段階で別の市場セグメントも攻略する「複数ニッチ戦略」をすすめています。