ターゲティング戦略その5:市場のフルカバレッジ戦略 = 無差別型・差別型ターゲティング戦略
「市場のフルカバレッジ戦略」は、経営資源が潤沢にある大企業にしか選択できないターゲティング戦略です。
市場のフルカバレッジ戦略では、考えられるすべての顧客に対して、複数のマーケティング戦略を同時展開するため、莫大なコストがかかります。
これは、コトラー教授の競争地位4類型の「マーケット・リーダーの戦略」に該当します。
マーケットリーダーの戦略は「守りの戦略」であり、
- 市場そのものを拡大させる
- 市場シェアを守り抜く
- 市場シェアを拡大させる
という3つのことを行います。
マーケットリーダーは、追随するチャレンジャーやフォロワーが特定の市場セグメントで勢力を拡大することを防がなくてはいけません。
そのため、潤沢な経営資源を使って、対応すべてきすべての市場セグメントでマーケティングを展開し、競合が付け入る隙を作らないようにフルカバレッジ戦略をとります。
コトラー教授によると、エーベル教授の「市場のフルカバレッジ戦略」は、
- 無差別型ターゲティング戦略(=無差別型マーケティング)
- 差別型ターゲティング戦略(=差別型マーケティング)
の2つに分けることができる、と著書で述べています。(「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版 」p328)
まず「無差別型ターゲティング戦略(=無差別型マーケティング)」は、
- 単一製品のマーケティングミックス(4P)を市場全体に対して適用する
という事を行う、市場セグメント間の違いを無視したターゲティング戦略です。
これは、いわゆる「マス・マーケティング」であり、ポーター教授の「コスト・リーダーシップ戦略」にも通じる考え方です。
コスト・リーダーシップ戦略とは、
- 業界全体に対して圧倒的な低コストを武器に戦うコスト優位な戦略
のことで、
などを駆使しして、低コストを実現します。
無差別型ターゲティング(=無差別型マーケティング)も同様に、
- Product(製品):大量生産によって低コストを実現する
- Price(価格):低コストによる低価格で誰でも手に入るようにする
- Place(流通):大量流通でどこでも手に入るようにする
- Promotion(販売促進):マス広告で誰でも知っている状態を作る
という、大量生産・大規模販売で消費者一人当たりのマーケティングコストを下げながら、市場全体で圧倒的な地位を築くことを目指します。
そしてもう一つは「差別型ターゲティング戦略(=差別型マーケティング)」で、
- 個々の市場セグメントに対して個別の製品を開発しマーケティングを展開する
という方法です。
こちらは先ほど説明した、
- 製品専門化戦略
- 市場専門化戦略
の両方を同時に実現しようとする戦略であり、
- 個々の製品のコスト優位性を高める
- 個々の市場セグメントでの収益性を高める
といった両方のメリットが享受できる一方で、
- マーケティングコストの最大値が跳ね上がる
というデメリットがあるため、経営資源が潤沢な企業しか採用できない戦略です。